「完全予約制」と「新患随時受付」併記をやめるために

コンサルブログ | 2016年7月29日

「完全予約制」と「新患随時受付」の二律背反する併記。こんな書き出しに「なぜ二律背反?」と思う歯科医は、少なくないかもしれません。そんな向きでも、「借りすぎに注意」と注意しながら「いつでもどこでも手軽にキャッシング」と謳う大手銀行の広告には、「なに都合の良いことを言って」と思うのではないでしょうか。しかし同じような矛盾が、歯科医院の受付ではまかり通っています。

歯科医院の案内やウェブサイトでは、「完全予約制」と「新患随時受付」の併記は当たり前になっています。歯科医から依頼があれば、私の事務所でもパンフレットやウェブサイトを、特に気に留めることもなく「完全予約制」と「新患随時受付」を併記して制作しています。時として「完全予約制」と「新患随時受付」も入れておきましょう、とアドバイスさえしているかもしれません。

ところがこのアドバイス、親切でも何でもありません。と言うのも「キャンセルが多い」「アポイントが守られない」「昼休みがない」「残業が多い」といった歯科医院で頻発する初歩的問題は、「完全予約制」と「新患随時受付」の併記に因を発しているからです。無自覚にも私たちは罪深きアドバイスをして、大手銀行のように抜かりなく仕事の種蒔をしていることになります。

残念なことに「予約制」や「完全予約制」の併記は歯科医院の常識となっています。常識化した背景には、「応召の義務」の名残だった「新患随時受付」が定着した歯科医院に、欧米の自由診療歯科の影響と予防の定期管理化による「予約制」が普及したことにあります。予約制が定着して形骸化した「新患随時受付」は、それでも患者獲得のため歯科医院に表示され、「完全予約制」と「新患随時受付」併記が常態化したわけです。このような矛盾は、歯科医院数の過剰とDMFT指数の向上による患数の減少を因とする医院経営のご都合主義から発生しています。

それでは歯科医院にとって、新患数はどのように経営に影響を与えるのでしょう。新患数を積み上げてきた結果、月間レセプト枚数250枚を超えて300枚に届かんとする頃、多くの院長は翌週のアポイントの埋まり具合を気にすることなく寝床につけるようになり、「一山越えた」と実感する時期です。すると次に「キャンセルが多い」「残業が多い」という問題が寝付きを悪くさせます。先に述べたように、この問題は表記しようとしまいと「完全予約制」と「新患随時受付」の両立は、成り立つ道理がないことを行う経営上の情実が原因です。「情実」と表現するのも、それが原因とわかっていても止むに止まれず「新患随時受付」を行っているからです。

「新患数は?」「新患来た?」「新患減った?」と歯科医がラッパーのように発する新患数の実態は、いったいどの程度なのでしょうか。歯科医院の平均新患数は診療日×1.3人といったところです。この計算からすると月間20日稼働の医院の新患数は26人程度になります。この月間26人の新患数を多いと感じるか少ないと感じるかは、医院の立地や診療体制によるところになります。ちなみにGMS規模の商業施設では月間新患数は100人超が平均的ですし、10万人程度の地方都市のGP医院の場合は、月間新患数は20人を切るのが普通です。ユニット数が約4台前後の歯科医院新患数は1日約1人と思っていいのではないでしょうか。つまりかように歯科医院にとっては、新患は貴重な経営資源なわけです。ですから、「飛び込み新患」に対して受付が、「当院は予約制ですから・・・」などと、素っ気なく断りを入れる声が治療中の院長に聞こえようものなら、タービンを持つ手が震える気持ちもわかります。しかし、「飛び込み新患」は、情実入学した学生同様に出来が悪いのが常です。既往患者の診療時間を遅らせてまで診療しても、その後のリピーターになるどころか遅刻・キャンセル・中断患者となる可能性が極めて高いのが「飛び込み新患」です。

このような立地頼りの新患集めをする診療体制の象徴が、「完全予約制」と「新患随時受付」併記なのです。この体制は、受付がよほどマネジメントに長けているか、あるいは院長が患者の診療経過と予後に無関心でなければ、中長期的には成立しません。それよりも新患受け入れを制限して、既往患者をできるだけ早く完治に至る診療計画(=通院計画)を立て、既往患者が通院のたびに満足する診療体制で迎え信頼関係を築き、早期の完治から定期管理への流れを作ることが、医療者も患者も満足できる本来の歯科医療サービスの在り方です。新患も既往患者も八方美人的に受け入れて、待ち時間が長く待合室は混雑して、再診は1ヶ月後なんていう歯科医院は昭和40年代の遺跡です。こんな医院は、一見患者本位の医院で流行っているようですが、新患にも既往患者からも少しずつ満足度を奪っていって、時間とお金に不自由で健康観の貧しい患者にしか人気がなくなり、院長の体力低下に伴い衰退する歯科医院の典型です。「完全予約制」と「新患随時受付」の併記には、このような暗い未来予測しかできません。それよりも「不便な患者に便利な歯科医院」にならないために以下のことを実施してはどうでしょうか。

  • 「新患随時受付」の表記を止める
  • 最短完治を目指し予防管理を定期的に行う医院方針を伝える
  • 初診時に医院方針をきちんと伝える時間を持つ
  • 来院時の歯磨きをすることを受診ルールとする
  • キャンセルは医院方針と逆行することを伝える
  • 医療側も患者側も双方時間を守ることを伝える
  • 医院からの情報を読み保管することを伝える
  • 新患受け入れまで数ヶ月かかる評判をつくる

上記のことを徹底すれば、「完全予約制」の医院ができあがり、患者もスタッフも院長も満足度の高い歯科医院になること、間違いありません。

文京区小石川の歯の神様

弊社より徒歩4~5分のところにある源覚寺は夏目漱石の小説にも登場する「こんにゃくえんま」で有名ですが、実は知る人ぞ知る歯の神様「塩地蔵」が境内にまつられています。
その名の通りお地蔵様の周りにはもとの姿がわからないほどに”こんもり”と塩が盛られています。お地蔵様の体に塩をつけてお祈りすると同じ部分の病気が治るのだとか。
歯科の「完全予約制」が浸透することで、歯でお困りの方が減り塩地蔵のお役御免の日が来ることをお祈りしてまいりました。

IMG_0726
IMG_0716
IMG_0719
IMG_0715
IMG_0717