勤務医が上手くなるには何が必要か

コンサルブログ | 2016年7月21日

先般、「失敗から学ぶ35歳からのキャリアプラン」と銘打った歯科医師の経営勉強会のセミナーに参加する機会がありました。講師の歯科医師が独立開業して現在の成功に至るまでに重ねてきた失敗談を、開業前の歯科医師と歯科大学生に講演形式で話して、そこから何かを学んでもらうという企画です。バラエティー番組「しくじり先生」を模倣して歯科版に仕立てたセミナーです。実は、歯科D1グランプリのようで、講師として参加するのは、なんだか気恥ずかしかったのですが、参加して新たに学ぶことがありました。

当日、私は一番手で登壇したため、その後に続く各講師(開業医)の話をじっくりと聞くことができました。各講師それぞれ失敗談を熱演(?)され面白可笑しく話を聞いていたのですが、この内容がどれほど開業予備軍の歯科医の胸に響くのか、フッと疑問を感じていました。しかし、セミナーで居眠りしている歯科医師の姿を見慣れた身には、真剣に話を聞き入る受講者の姿は、実に新鮮でもあり意外でもありました。

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会場の真剣さから、受講者の関心は捕まえていると思ってはいましたが、この内容が本当に開業予備軍にとって学びになるのかは、まだ半信半疑でした。しかし、セミナーアンケートからは、受講者の真剣さを反映するかのように、ほとんどの歯科医がセミナー内容に対して高評価なのには、改めて驚かされました。この上々の結果を突きつけられると、開業予備軍歯科医師のレベルに対しての私の認識は甘く(もっと意識も力量も高いと思っていた)、主催者の認識が的を射ていたと認めるしかありません。私が数多くの開業疑似体験をしてきて耳年増になっているからでしょうか、それにしても今回の内容から学ぶことがあるようでは、「まだまだ幼い、開業なんか考えてはいけない」と悔し紛れに一くさり言いたくなります。

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このセミナーで、私は開業予備軍と歯科大生のレベルを再認識することができたことは、先に述べたように新たに学び直すことができ、主催者には感謝しています。と感謝しながらも、受講者の「どうすれば上手く(技術)なれますか?」という幼稚な質問には、頭痛がしてきました。この質問はナイでしょう。開業前とはいえ、同じ国家ライセンスを持った立場、プロがプロにそんな質問をするべきではないのです。例えて言えば、2軍のプロ野球選手が1軍のプロ野球選手に「どうすれば打てるようになりますか?」と聞くでしょうか。少なくとも「内角球をさばくにはどのように左肘を畳んで打つのですか?」と聞くのが、2軍とは言えプロのレベルの質問です。また今回のセミナーでのことではありませんが、勤務医がよく「モチベーションが上がらないよね」などと口にするのを聞くたびに思うのは、プロ野球選手が打てなかったことを、いちいちモチベーションを理由にしていたら、翌年の契約は解除されるでしょう。かように今の開業予備軍の歯科医師は幼いのです。

話は戻ります。「どうすれば上手くなれますか?」というストレートな質問に対して、不意を突かれたのか気後れしたのか、講師の歯科医師たちも、セミナーやスタディークラブの活用法といった類の回答が目立ちました。しかし、この答えには少し物足りなさを感じます。歯科医師が臨床家として上手くなる(一角の歯科医になる)には、テクニカルスキルとヒューマンスキルがバランス良く向上することが大切なのは言うまでもないことです。セミナーなどのデモ用画像を座学することは、ドライビングシミュレーターを操縦しているようなもので、実際の公道を走るのとは次元が違う話です。ハンズオンセミナーも作られた環境で行われるドリル効果を求めるものです。歯科医師が上手くなるには、公道を走ることです。つまり名医でなくとも社会性のある院長の元で最低5年は勤務することが、上手くなることの最短距離だと思います。

5年は長いと感じる向きもあるかも知れませんが、自分の治療結果の3年・5年経過を知らずして、治療の成否を知ることができるでしょうか?また1~2年の在籍期間で、自分の技量の何を評価できるのでしょうか。それこそ痛みをとって被せて目の前の結果ばかり求められる便利屋的歯科医になるのが関の山です。一般企業では勤続10年がなんらかの役職につく目安とされます。一つ所で、それだけの職務経験と人生経験を積むことが、技能と良識を身につけるには必要とされているからです。

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このことは歯科医とて例外ではありません。しかし、勤務医の労働契約は2~3年を基本にしていることから察するに、年々勤務医の在籍年数は、短くなっているように思います。これではいくらセミナーやスタディークラブに参加したところで、上手くなるのは難しいのです。なぜならば、繰り返しになりますが、生活医療である歯科はテクニカルスキルとヒューマンスキルが一体となって、初めて患者から評価されるからです。テクニカルとヒューマンは補完し合う関係で、車のタイヤの空気圧と同様に左右前後適正でなければ機能しないものなのです。開業予備軍が、技術と良識(社会常識)を一体で学べる場は、一般開業医の診療所しかないのです。勤務医にとって勤務先歯科医院こそが最高のセミナー会場なのです。

本セミナーのテーマ「失敗から学ぶ・・」ことで一番大切なことは、勤務先選びではないかと思います。開業予備軍の歯科医師は、給与や院長の有名無名、そして立地で選ぶのではなく、院長の社会性と通院している患者さんの傾向を見て判断することを勧めます。