次代の歯科医師はあなたの歯科医院を買うだろうか?

コンサルブログ | 2018年8月6日

歯科医師の発想を変えるための医院評価

歯科医院の譲渡について相談を受ける機会が増えてきました。以前は譲受人からその医院の評価を求められることが多かったのですが、最近では団塊世代の歯科医師が引退の時期を迎え譲渡人となり、自院の評価を求められることが増えています。

こういった相談を持ちかけられる度に、改めて歯科医院は“40年一代限りの事業”なのだと感じます。構造不況業種とされる歯科医院が、いつまでも同じ形で始まり終わっていく流れを見ていると、終わる歯科医院が終わり方を変えないと、歯科医院の始まり方が変わることはなく、構造不況業種から歯科医院が抜け出すことはできないと思います。新規開業は以前にも増して設備投資がかかり、今では患者を集めるのにも従業員を集めるのにも費用次第で経営リスクは高まるばかりですが、歯科医院は従来と変わらない形で開業しており、業界全体が思考停止に陥っています。“引退歯科医師の終わり方が変わると、開業歯科医師の始まり方が変わり、歯科界は効率的になってくる”こんな発想を持つ業界に変わりたいものです。

歯科医院が“40年一代限りの事業”になる理由は、修復治療中心の診療形態であることが最大の理由として考えられます。すべてが一院長の知識と技術に委ねられている診療所では、院長は唯我独尊になりがちで、誰が事業継承したとしても診療方針が継承されることは難しく、別の歯科医師が中古車のように歯科医院を買い、“40年一代限りの事業”を新たに開始したにすぎない結果を繰り返します。前任歯科医師が築いてきた人(従業員や患者)や広めてきた考え方を継承するわけでなく、単に設備などのモノを中古で安く買う継承形態が、歯科医院がヘルスケアを基盤にしてプロフェッショナル化できないでいる一因と思います。

ヘルスケア時代の歯科医院は、前任歯科医師の従業員や患者、診療方針に賛同した別の歯科医師が“新たな40年を積み上げた80年事業”へと継承されていくことで、効率的に骨太経営になり、臨床データもエビデンスとなり、診療品質も向上すると思います。そのためには、継承する医院の実態が、次代の歯科医師が目指す歯科医療が行える患者層であり、診療圏であるのか、判然とする評価基準がなければなりません。しかし、従来の譲渡医院の評価には定まったものはなく、譲受人はできるだけ評価を低く(安く買いたい)、譲渡人はできるだけ評価を高く(高く売りたい)する算盤勘定に走り、仲介業者にも定まった評価基準がなく、その時の状況によって変わる水物です。また、譲渡医院を扱うことは敗戦処理的なイメージからか、開かれた情報の上で継承されない傾向があることも、譲渡医院の評価をブラックボックス化させる一因になっています。

そのため、今までの修復治療中心の医院の継承では、譲受人も譲渡人も患者さんや地域に根づいた自院の理念を継承する意識が希薄で、設備や営業権の売買といった経済活動が主となっていたのです。現役を引退して自院を譲渡する多くの歯科医師が、引退する時まで「地域医療に貢献するためにも患者さんのためにもいい後継者を」と言いながら、最終的には自院を少しでも高く売却するための方策に走るケースもあります。自らの仕事の最後に、こういった矛盾した行動を行うのは虚しいものですが、現役時代に店仕舞いのための資金を十分に確保できない業界という現実もあるからでしょう。こんな歯科界の現実に気がつき、業界全体が継承医院への視点を変えることが大切です。

この20年で歯科医師は開業するだけでなく、閉院するのも難しい時代になってきました。それは経済の停滞、人口減少といった歯科の外部環境の変化もありますが、業界内部の問題も多分にあります。修復から予防へ歯科臨床の背骨が変わった割には、歯科医院経営の背骨をモノからヒトへと変えられていないことが一番の問題ではないでしょうか。本来なら臨床形態が変われば経営形態も必然的に変わるはずですが、人材不足、資金不足など諸々の小事、そして何より歯科医師の発想不足により、歯科医院は根本的変化ができないでいるのです。歯科医師の発想を少し変えることで、歯科医院の未来は明るくなると思います。医院継承においても同様です。従来の修復治療医院の評価からヘルスケア時代の医院評価に変えていくことで、開業する歯科医師も引退する歯科医師も幸せになれるはずです。

次代を担う歯科医師のためにも、継承歯科医院の評価について考え、現役歯科医師の発想を変えていきたいと思います。これまでの流れから、継承医院の全てを有効活用することが、歯科界を効率的にするようですが、継承歯科医院に価値がある場合は少ないと思います。冷たいようですが、社会の変化に即応した発想で医院構造を速やかに構築することが、歯科界全体を効率的にする道ですから、新たな評価基準に合わない医院は、速やかに退出してもらう以外手立てはないと考えています。大切なことは、継承する医院と退出する医院を明らかにすることです。

1.情報経路からの評価

私は歯科医師から居抜き医院の評価を軽く打診された時は、いちいち診療圏や患者層から評価するような面倒なことはしません。情報経路から推察することで十分だからです。下記のCクラスは70%が、Dクラスは90%が(市場)退出案件と踏まえた上で、譲渡金額が300万円以下で、築年数が20年以内の案件であれば、期待せずに検討してみてはとアドバイスしています。本来、検討の余地があるのはA・Bクラスまでで、それも譲渡金額は保険収入の6ヶ月分程度(30~40坪のテナント開業の場合)であり、それでも継承後に自分の診療方針を堅持しつつ半年後に盛業する歯科医師は50%程度ではないでしょうか。

情報経路からの譲渡物件評価

  • Aクラス 譲渡医院からの直接の打診
  • Bクラス スタディーグループや地域歯科医師会からの打診
  • Cクラス 歯科材料店やメーカーからの情報
  • Dクラス 不動産情報や居抜き業者情報

2.歯科営業権を算定する

譲渡物件の歯科業界の評価は、医療機器と内装の減価償却残(または簿価)+営業権(保険点数・レセ枚数/月間+自費売上/月間)が多いようですが、これも営業権の評価の仕方が慣わし的なものにすぎません。営業権は、患者層の年齢と保険点数とレセ枚数のバランスで、0~8ヶ月程度で評価します。私は、自費の評価は前任歯科医師の評価と考えており、継承後のやり直し治療もあり、リスクにもなるため評価はしません。
営業権の評価で忘れがちなことは、譲渡医院の主たる歯科医師と歯科衛生士の存在です。C・Dクラスの医院の営業権は、レセ枚数が多く保険点数が高くとも継承後の診療リスク高いため0~2ヶ月程度で、A・Bクラスの医院は歯科衛生士の患者管理状態を加味して評価します。

在籍医療従事者による評価

  • Aクラス 主たる歯科医師は開設管理者の歯科医師
  • Bクラス 主たる歯科医師は雇われ院長
  • Cクラス 主たる歯科医師は代々雇われ院長
  • Dクラス 歯科衛生士が在籍していない医院

3.物件・立地の必要条件

譲渡物件は新築建物でないため、設備と環境の確認は必須です。開業すれば、どこでもある程度は盛業した70~80年代に開業した歯科医師の譲渡物件は、ヘルスケア型歯科医院を展開するには難しいケースが多いのが実態です。
例えば、天井高が2450cm以下、電灯容量が100A以上増やせない、床下配管の老朽化など、インフラが標準的でない場合も少なくはありません。建物構造から高齢化社会に対応できなかったり、長期的運営が難しかったりする場合もあります。

建物・立地のマイナス評価

  1. 建物築年数が用途・工法に準じた耐用年数の1/2以下の場合
  2. 1階が標準で2階以上はエレベーターがない場合
  3. 子供・女性・高齢者が安心して行ける場所でない場合
  4. 建物周辺にパーキングがない場合
  5. 診療日数×1.0~1.3人の新患がいない場合

4.譲渡医院の相場

さて、実際の居抜き譲渡医院の相場はどの程度なのでしょうか。首都圏にある居抜き歯科医院専門業者の最新譲渡物件50医院をサンプルとしました。平均的譲渡歯科医院のサイズは(A)にある通りです。面積とユニット数を見ると首都圏の平均的歯科医院のサイズと変わりません。譲渡歯科医院のうち高齢による引退や傷病による廃業する医院は34%ですから、その他66%の医院は凡例にある理由のように経営環境に関することでの廃業です。首都圏の普通の歯科医院は、いつ廃業予備軍になってもおかしくないわけです。また、そもそもこのサイズの歯科医院が首都圏に多いために、譲渡物件として流通する確率も高いのですが、「30坪ユニット3台」の医院は、歯科衛生士の退職が繰り返させるサイズのために、患者の顧客化が進まないことも、廃院予備軍となる理由かも知れません。

(A)譲渡医院の平均サイズ

面積 26.7坪
ユニット数 2.9台
保険収入 1,980,000万円/月
希望譲渡価格 9,087,755円
(図1)譲渡医院の平均面積

※平均:26.7坪

(図2)譲渡医院の平均ユニット数

※平均:2.9基

(図3)譲渡医院の平均保険収入

※平均:198万円

(図4)譲渡医院の平均希望売却価格

※平均:9,087,755円

5.廃院の最大理由は人材不足

今までの歯科流通小売が主体となってきた歯科開業の設備投資は、現代社会状況とは逆行していて、不幸な歯科医師を作り出す要因となっています。歯科流通小売の歯科医院のプロモーションを簡単にいえば、歯科医院への設備投資の拡大を起爆剤にして、需要を増大させ、医院経営を成長期から安定期へと導くものでした。しかし、この需要拡大のメカニズムは高度成長期の遺物であるという産業界の常識は、個人事業主が主体の歯科では経営情報が集約されないためか、おざなりにされてきました。しかし、(図5)からは、廃業する歯科医院の最たる理由は人材不足であることがわかります。ここに歯科流通小売の手法を持ってくると、医院運営をする人材がいない施設にいくら設備投資をしても、設備は遊んでいる状態で減価償却の対象になるだけで、なんの経営貢献をしていないことになります。つまり、現代の歯科医院は設備の陳腐化や患者減少から採算が悪化して廃業するだけではなく、人材不足から医院の生産能力そのものが低下して廃業する傾向もあるのです。かけるべき費用の優先順位を変えることが必要です。

(図5)譲渡医院の主な譲渡理由

6.人口動態と来院者年齢分布

(図6)診療圏の人口動態

ヘルスケア時代に盛業している歯科医院の来院患者分布は、修復治療中心の医院に比べ診療圏の人口動態に相似しています。以前の修復治療中心の医院の来院患者の年齢分布は、院長の年齢を頂点として左右に傾斜していきます。院長が高齢になればなるほど、若年層の来院者の集団は少なくなるのが一般的です。こういう医院の継承医院としての評価は、譲受人の年齢が若かったり、診療方針が予防型であったりする場合は高くはありません。さらに、継承医院の診療圏が高齢化した逆さピラミッドのような人口動態であれば、継承してもヘルスケア型の歯科医院としての将来性は低いでしょう。

(図7)来院患者年齢の分布

サンプルの人口動態と来院患者年齢分布は、首都圏の私鉄沿線医院の資料です。
サンプル医院の院長の年齢は65歳で、予防歯科に力を入れてきたという医院です。この医院の診療圏の人口動態は、労働力人口も多く日本では数少なくなった樽型のような形です。それに比べて来院患者年齢分布は、60代を頂点に高齢者中心で40代以上の来院者が約70%を占めます。来院患者年齢分布を見れば、従来の修復中心の歯科医院そのものです。こういう医院の継承は、診療圏の人口動態に近い来院患者年齢分布に戻すまで時間がかかるため、譲受人は十分な運転資金を有する必要があります。

このような診療圏と来院者の年齢ギャツプが大きい傾向を持ったまま、継承時期を迎えた予防型歯科医院は少なくありません。1900年代後半から2000年前半にかけてヘルスケアの潮流を受け、修復治療中心から予防型医院へと方針を変えた40歳以上の院長の医院がそれに当たります。予防歯科の啓蒙、体制の構築をしてきたものの、従来の修復治療の患者さんが混在しており、予防歯科として成長が遅く成熟を待たずして引退の時期を迎えてしまった歯科医師です。このような医院の場合、“40年一代限りの事業”として区切りをつけて継承したり、廃院したりするのは予防歯科普及にとっての後退につながります。

平成28年

年代 患者数 累積和
60代 804 20.0%
50代 726 38.1%
70代 687 55.3%
40代 574 69.6%
30代 401 79.6%
80代 344 88.1%
20代 297 95.5%
未潤 96 97.9%
10代 79 99.9%
90代以上 4 100.0%
4012

このような医院を明確に評価し、次代の歯科医師に繋いでくことで業界は前進するのです。また、新規で予防型歯科を開設した場合、中高年の患者が少ないため治療が必要なケースが少なく、収益が上がらないことが経営リスクになる場合が多いようです。こういうケースも40歳以上で予防型歯科へ取り組んだ医院を継承することで、開業当初から治療が必要な中高年の患者を確保でき、“新たな40年を積み上げた80年事業”へと継承されやすくなり、予防型歯科医院として成熟していくのではないでしょうか。

さて長々と書いてきましたが、あなたが心血を注いできた医院を評価して、次代の歯科医師はあなたの医院を買うでしょうか?