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小六英介先生コラム「歯科医院内のコミュニケーション」

声は人なりⅡ

声は人なりⅡ

都内の歯科診療室でなに気なく耳に入った歯科診療の医師と患者の会話


今までの治療で、かなり良くなっているけど、根本的には、差し歯にしたところが欠けたんだね。原因は加齢的なものに加えて、少しショックがあって差し歯がはずれたケースだな。パーシャルデンチャーとして入れ直すにも、元にある歯根を抜歯しないと完治しにくいんだよね。私のところでは、あんたのように歯根が長いのは、抜歯できないよ。私が紹介状を書いてやるから歯科大の専門医で抜いてもらってくれる?そうすれば早く治せると思うんだ。


あーそうなんですか。なにかよくわかりませんが、大丈夫でしょうね。


心配はないと思うよ。

これだけの文字面のやりとりだけですと、極めて親切で、適切な処置と思われますが、実は医師の声調が、怖いぐらい、低く、しゃくり上げるように話すので、患者さんは異常なイメージにとりつかれ、どうも納得するのが大変だったようでした。
先日、日本歯科医師会主催の平成15年度生涯研修の最終回が横浜で行われました。私もコミュニケーションの講師として、参加しました。この時の質疑で、「患者さんやスタッフを納得させるための話し方として、声を低めて、アゴを少し突き出して話す方が、相手が素直にこちらの言い分を聞き入れるのではないか」というのがありました。
あなたが聞き手だったら、どんな気がしますか?内容によってケースバイケースでしょうが、低音でアゴを突き出した形でしゃべると、ヤクザのおどしみたいで、怖いでしょう。インフォームドコンセントというのは、相手を威嚇して、言うことをきかすというのではありません。これは、患者さんでなくても、「もうここには近寄らない方が良い」と感じますし、「あんたの歯は抜くしか方法はないのだ」と決めつけられているようですから、二度と来ないと思うに違いないのです。現実に、子どもの患者さんが転院したというケースがあったそうです。

声の調子は百人百様です。相手を納得させようとばかり考えますと、
イ…「声を荒げる調子」になりやすいのです。この状態では声が大きくなるばかりではなく、語調も自然に激しく、息づかいも乱れてしまいます。内容を相手が冷静に受け取る余裕がなくなります。当然、論理が失われるはずですが、日常の習慣で、こんな調子の人はかなり多いのです。歯科診療室では最悪の声調、語調です。
ロ…前述の声を低めて、しゃくり上げるようにしゃべる。これは、うまくいかないでしょう。どんな社会でも禁物の声の出し方です。

落ちついて話をする場合の4条件があります。
a…先月お話した様に、中音より少し上からしゃべりはじめ、語尾まですっきり言い切り、終わりの部分は、スット下げる。

b…しゃべりのワンセンテンスを5秒以内で終わらせる。
これ以上、「~ですが、~けれども、~ていうか」とつなげると、内容の論理性が欠落しやすいため、相手がイライラし、余分なことを考え始めます。

c…重要なひとつのことばを、ゆったりと、高めに発声するように心がける。
重要なことば、つまり主語となるものを明確にすることです。従って、センテンスの前の方にこのことばを持ってくるようにする。結論的な内容になりやすいのです。

d…早口は厳禁。
早くしゃべっても、多くは伝わりません。早口の傾向の人は、センテンスを言い切って、次のセンテンスに入る時、一拍おく位でよいのです。つまり、話すという行動は、相手に理解してもらうことですから、自分だけ言ったとしても、目的は達していないと知るべきです。

次号では、話すことば、内容と人の心についてです。ご機嫌よう。

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心にひびく話しことば
スタッフの品格が高まる
心にひびく話しことば

小六英介著
ヒョーロン・パブリッシャーズ

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