聖夜から大晦日の夜に思う
誰もがスティーブ・ジョブズにはなれない。
あなたはAndroidでいいのでは!

コンサルブログ | 2019年12月23日

スタディーグループ全盛の日本で歯科医師の一つの欠点は、あまりにそのスタディーグループなどで得た形式(システム・術式・審査診断様式など)のみに執着することにあると思います。それは「癖」のようなもので、私は密かにデンティスト原理主義と呼んでいます。この原理主義には2つの弊害が伴います。第一にシステムを改革しない以上は、何をやっても上手くいかないし、そんなものは駄目だと考えがちなことです。

歯科医院には目前になすべきことが山積しているにも関わらず、デンティスト原理主義者の眼は常に一つのシステムのみに囚われています。第二にはシステムのみに重点を置くために、改革を考える場合にはそのシステムの否定や変改のみに意識が向いて、現状を見失う傾向があることです。むしろそこに歯科医院経営の危険があることを知らないのです。

過去、私には年間約80回の各分野のセミナーや講演に参加していた時期があります。そのうち歯科関連は20回程度です。この10年間は、その回数も随分減りましたが、参加してきた各分野のセミナーなどの中で、スティーブ・ジョブズは変革者の理想像として、うんざりするぐらい何回も登場してきました。歯科セミナーも例外ではなく、ジョブズ語録がたくさん登場してきました。健康保険という規定路線が敷かれ、低迷する現状を自力ではなかなか解決できない業界のため、なおのことジョブズの生き様は痛快で理想的に映るのでしょう。

確かにジョブズのように、古い秩序をたたき壊しゼロから何かをつくり、新たな秩序の中で新たな価値を作り上げていく才能は世の中には必要です。その一方で、目の前にある古い秩序(と見えるもの)を壊すことが早急に求められている分野はそんなに多くはないのです。歯科業界もその一つです。イノベーションというユートピアが歯科セミナーなどで語られていますが、実はこれで万事OKというような理想郷などどこにもありません。

そういうフィクションに頼るのではなく、歯科医師の理想と歯科医院の置かれた環境や社会の現状を少しずつたぐりよせながら、現状を少しだけ変えて、理想に向かって匍匐(ほふく)前進をしていくことでしか、一歯科医院の経済力と組織力ではイノベーションは起きないのです。私はそれを『だましだましのイノベーション』とあえて呼んで、大事にしています。

スティーブ・ジョブズは変革者の理想像として各分野の原理主義者に崇められています。ですが、ジョブズが創業したAppleのiPhoneはスマホの元祖でありながら、その世界的シェアといえば20%以下です。後発のGoogleのAndroidが約70%のシェアを占めている現実を原理主義者はどう見るのでしょうか。

GoogleはAndroidのOSを各メーカーに提供して、その機能やデザインと価格設定を自由にさせて、メーカーに市場で競わせています。一方、iPhoneはどのシリーズも同じロゴで統一的なデザインと機能を固持しています。シェアだけで評価はできませんが、最近はスマホ自体の品質でもAndroid搭載機種の方が優位との評価が、専門家の間でももっぱらなようです。

90%の歯科医師はAndroidのように、新しいシステムを成長させる側にいて、そこで求められるのは、新しいシステムを生活者や時代環境に合うように調整し、メンテナンスしていく才能です。つまり『だましだましのイノベーション』です。それは、既存の仕組みをゼロベースで考え、必要であればそれを否定できる大胆さと柔軟さを持ちながらも、目の前にあって自分たちにできることにも同じくらい心を傾けることです。そうしなければ、自らの良さも失ってしまった上に、新しい地点にも到達できない危険性があるのです。

聖夜から大晦日の夜に人は哲人気分になり、新年を迎えて気分一新、新しいことに取り組もうとする向きもありますが、「誰もがスティーブ・ジョブズにはなれない」ことを心してください。

今年は歯科医院の経営不振や破綻が目立つ年でした。年の終わりに、長く歯科業界を見てきた目から、愛情を持って辛口blogで歯科医師を批評してみました。本年は大変お世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。