──顔面広報・ゼロサム経営・昭和の風が吹いている
幹線道路を車で走っていたら、突如視界に飛び込んでくる、黄色やピンクの背景と、眼鏡をかけたおじさんのドアップ。「インプラント」と大書されたあの看板を、一度は目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
また、スマートフォンで歯科医院を検索したとき、開いた瞬間に現れる「涼しげな目線でこちらを見るドクターの大きな顔写真」に、少し驚いた経験がある人もいるかもしれません。
──そう、それが、
- 幹線道路沿いに何百枚もの看板を掲げることで知られる歯科院長、そして
- 歯科界の教育メディアを運営し、Web上で強い存在感を放つドクター。
この2人に共通するのは、なんといっても横分けヘア、顔出し、そして「俺にまかせろ」感。
今どき珍しい“昭和テイスト”全開の自己プロデュースですが、これが意外と効いている。
思い返せば昭和の時代、日本中には“顔で語る広告”があふれていました。大村崑さんのオロナミンC、都蝶々さんのオロナイン軟膏──いずれも、表情ひとつで「元気」「安心」「信頼」といったメッセージを伝える顔面広告の代表格です。
こうした文化の延長線上に、現在の“横分け+顔出し戦略”も位置づけられるのかもしれません。そして、笑ってしまいそうになりつつも、その姿勢にはある種の「覚悟」と「戦略」が透けて見えるのです。
横分けとは、思想である
現在のビジネスヘアは、マッシュ、センター分け、オールバックなど多様ですが、看板戦略で知られるあの院長も、Web発信で知られるドクターも、一貫して横分けです。しかも、前髪はしっかり流して少し立ち上げ気味。まるで“昭和の責任者”のよう。
この髪型には、たんなる懐古趣味ではないメッセージが込められています。
「俺がやる」「俺が責任を持つ」──そう言わんばかりの潔さと存在感。
医療者にとって、「信頼される」というのは何よりの武器です。
そして、患者が求めているのは「正確な技術」と同じくらいの「安心できる感じ」。
横分けとは、その“安心”を提供する、最古にして最強のビジュアル戦略なのかもしれません。
ゼロサム戦場では、“顔”が武器になる
看板で存在を訴える院長が掲げるのは、街中に広がる何百枚もの看板。
一方、Webを駆使するドクターが掲げるのは、画面いっぱいに広がる「顔」。
この“顔面広報”は、特にインプラント・審美・矯正といった自由診療の分野で強力に機能します。これらは価格競争・技術比較・実績の見せ合い──つまりゼロサムな戦い。
誰かが患者を得れば、誰かが失う。そんな世界では、「印象に残った者」が圧倒的に有利です。
そこで彼らは、言葉ではなく顔でこう語るのです。
「まずは、俺を覚えろ」
「次に、俺を信じろ」
ここに、ゼロサム戦略としての“顔出し+横分け”の説得力が成立します。
プラスサムの時代は、すぐそこにある
とはいえ、時代は確実に変わりつつあります。
2040年には、すべての団塊世代が後期高齢者となり、人口減少・高齢化・通院困難といった社会課題が加速します。これまでのように「治療の椅子を取り合う」ゼロサム型の市場には限界があるのです。
そこで注目されるのが、予防・歯周病治療・訪問歯科といった、“患者を育て・支える”プラスサムな分野。
- 予防に取り組めば、患者は健康になり、医院は信頼され、社会保険財政も軽くなる。
- 歯周病管理が進めば、全身の健康も改善し、QOLが向上する。
- 訪問歯科を行えば、「通えなくなった瞬間に受療を失う」という構造に風穴があく。
誰かを蹴落とすのではなく、みんなが少しずつ得をする構造。
これが、今後の歯科医院経営に求められる“プラスサム戦略”です。
顔面広報 × 中身のある医療=最強
看板で印象を残す院長も、Web上で存在感を放つドクターも、“派手な入口”を構えながらも中身は実にまじめです(たぶん)。
- 初診時の説明が丁寧
- 術後のフォローもしっかり
- スタッフ教育にも力を入れている(らしい)
このバランスこそが、実は最も強い。
「顔面広報」は戦略、でも中身が伴ってこそ。
患者は最初、「派手さ」で興味を持ちます。
でも、最終的にリピートや紹介につながるのは地道な診療の誠実さです。
一人は“地上の看板王”、もう一人は“HTMLの中の看板王”。
しかしその根底には、共通する“覚悟”が見えるのです。
あなたの医院は、どこに向かっているか?
このブログは、単に「目立てばいい」と言いたいのではありません。
“顔で語る”スタイルは、戦略として非常に優れているということ。
そして、それを真似るかどうかよりも大切なのは──
- 自院の強みをどこに置くか
- ゼロサムで戦うか、プラスサムで育てるか
- そして、その覚悟をどう伝えるか
という「設計」の部分なのです。
もしあなたの医院が、「何を出せば患者に伝わるか」を迷っているなら、
まずはそっと鏡を見てみてください。
オッと、その前髪、横に流れすぎてはいませんか?
※本ブログで紹介するスタイルは、特定の人物ではなく、歯科業界に見られる象徴的なマーケティング手法の一例です。