ヴィヴィアンとフロスの話

ヴィヴィアンとフロスの話

インフォメーション | 2025年8月4日

冷房の効いた部屋で、ふと涼しげな何かに触れたくなり、久しぶりに映画『プリティ・ウーマン』を観返していました。あの1990年のロマンティック・コメディです。

ジュリア・ロバーツ演じるヴィヴィアンが、初めてエドワード(リチャード・ギア)と過ごす夜のこと。ホテルのバスルームで彼女が取り出したのは、小さな箱。彼は一瞬、ドラッグか何かだと疑います。けれど、その中身は──白く細いデンタルフロス。

派手で軽薄にも見える彼女が、静かに歯のケアを始めるその姿に、私はハッとさせられました。たった一本の白い糸が、彼女の“内なる清潔さ”と“自分を大切にする知性”を語りはじめる。

このシーンが示すのは、まさにアメリカという国において予防歯科が「文化」として生きているという事実です。

アメリカでは、ジョンソン&ジョンソン社がフロスの特許を取得したのが1898年。
『プリティ・ウーマン』が公開された1990年には、すでにフロスは予防歯科ツールではなく、生活様式の一部として、自己管理や清潔感を表す“文化的なツール”になっていました。

特に上流階級や中産階級では、フロスを使うことは「知的で自立した大人のマナー」。
映画の中でも、それはセリフで説明されることなく、自然な行為として描かれています。

一方で、日本ではようやく2020年代に入り、「歯間清掃」や「定期的な予防」が制度や常識として広まりつつある段階です。歯科衛生士が、患者さんがフロスを自分から使っているのを見て驚き、感心する──そんな光景が今も珍しくないという現実。

つまり、予防歯科という考え方そのものに、100年近い文化的ギャップがある。

そしてふと、こんなふうに思います。あらためて、「予防歯科って、やっぱりクールだな」と。

……この暑さにくじけそうになる日々のなかで、
たった一本の白い糸から世界が広がっていく──それだけで、少し背筋が伸びる気がしませんか?

私も、コールガールからフロスを習っていれば、きっとうまく使えていたような気がします。

どうぞ皆さまも、お身体を大切に。
予防歯科という“静かな文化”の担い手としての誇りとともに、健やかな夏をお過ごしください