生涯研修の取材から

歯科医院内のコミュニケーション

生涯研修の取材から

本年度の日本歯科医師会の生涯研修が始まりました。
テーマは「基本診療の徹底、安全、安心、快適」です。
これは治療する側、治療される側、両サイドに関わる永遠のテーマだと思います。私も講師のひとりとして参加しています。担当はコミュニケーションです。私の担当の第一回は岐阜県歯科医師会でした。熱心に聴講され、前向きの姿勢で質疑が交わされたのは印象的でした。
医療は地域によって特徴も差もありますから、ワンパターンでは解決しないことが多いのも事実です。私はいつも患者サイドから見て、患者がどのように歯科医を、歯科医療を見ているのかを素直に聴いてみることが大切だと考えています。
そんな中で、医療側と患者側がどのようにコミュニケーションをとるべきかの方法論を考えるべきだと思います。これは、事実は事実として受け止め、直すべきは直す。正すべきは正す。将来に向けて考えを柔軟にしながら対応することが重要だと思うのです。
そこで地域の人たちの偽らざる声を聴いて回りました。25歳から50歳代の女性のことばです。あなたは歯科医師としてどのように感じますか。また、どう対処しますか。

ごく一般の人の歯科診療のイメージ

まだまだこんな声が多いのです。
「歯医者さんは怖い、痛くする、治るのに時間がかかる。治療費が高いんじゃない?」

例1 電車の中での中年女性の会話

「とにかくねェ、痛くしない歯医者なんていないのよ。痛さがわかってないんだものね。だからサァ、近くの薬屋へ行ったら、いろんな鎮痛剤を売ってるじゃない。あれで十分よ。なんでいまさら、もっと痛いことしてもらわなくちゃならないのかって思うわよねェ。」「それにサァ、隣の台で歯をケズっている音を聞くと、それだけで帰りたくなっちゃうわよ。」「そう、ちょっとやっただけで、『では様子を見て、また来週。予約していってください。』でしょ?なんでもっと早く治らないのかなあっていつも思うのよ。」「それにサァ、治療費が高くない?入れ歯なんて保険のきかないのをすぐすすめるんだもんね。」 『痛くするので怖い』というのは、年代を越えて歯科医療の常識のようです。あなたはこの辺をどのように対応していますか?

例2 研修会の質疑の中で

ある歯科医師が、「若い母親がこどもに、『言うことを聞かないと歯医者へつれていくよ。』と言っているのを聞いて、まだ歯科医というのは、そんな風に思われているのかとぞっとしました。」と話していました。
実は、母親からそのように言われて育った人は多いのです。それらの人達は本当に良い歯科医にめぐり逢えないでいるのです。これは事実ですから、どう対応するか大問題です。

歯科医をどうやって選ぶか

100パーセント「口こみ」です。大病院は避けたがります。従って開業医が良い仕事をするしかないのです。患者は未知なる世界にいるものの、無知ではありません。やはり患者という「当事者」です。こんな声を聞きました。

  • なぜ歯科医は自分の名前を言わないのか。こんな社会は一方的すぎで、親和感も生れない。挨拶もできないのか。
  • なぜ患者の話を的確に聴いてくれないのか。ろくに事情も聴かず、すぐ「アーンして」。信じてよいのかと思う。
  • 治療の進度がわからないので、転院は常識的です。疑念が重なり不信に陥る人はかなり多いとわかりました。当事者である患者は、医師を選ぶ権利を持っていますので、初診時から患者さんをより正確に理解すべきです。そこからコミュニケーションは始まります。
  • 「昔言われた『医は知らしむべからず、寄らしむべし』と考えている歯科医が多いのではないか。時代錯誤もはなはだしい。」と言うのです。いわゆるインフォームドコンセントの心理的原点です。

まだまだ辛らつな意見はつづきますが、逆転して考えると、歯科医への期待は大きいと言えます。ちょっと気を配ればずい分かわるのではないでしょうか。ではまた。