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歯科医院そんな立地調査でいいの?(2/2)
三軒茶屋をウォッチングする

三軒茶屋駅周辺エリアの特徴

私が学生の頃の三軒茶屋といえば、沿線のバンカラな大学生が酒を飲んでは暴れる街で、現在のおしゃれな暮らし世田谷というイメージとはだいぶ違い、the昭和という印象でした。そんなイメージが変わるきっかけになったのは、駅周辺の再開発で96年に開業した文化施設も入るオフィスビルのキャロットタワーの存在でした。三軒茶屋のランドマークとして、地域のイメージを一新させると同時に人の流れも大きく変えました。国道246号線を渋谷方面から直進してくると道の分岐地点に建つ高層のキャロットタワーは、先行すること約20年渋谷道玄坂下の分岐点に登場し、どこか隠微な感じの道玄坂をファッショナブルな印象に変えたSHIBUYA109を彷彿させるものでした。

実際に現地を歩いてみると思ったほど渋谷化されてなく、下町っぽさを感じる街並みです。駅西側の仲見世から映画館に至る通りの雑然さ、東急、西友、肉のハナマサと中流向のスーパーマーケット、点在する低価格小売のマイバスケット、路地につながる商店街、駅周辺の民度は90年代の頃と変わらない庶民的な印象でした。その中にあって下北沢に通じる茶沢通りは、小売店や飲食店がずらりと並び、地域生活者のおしゃれな散歩道でもあり通勤通学道路で、当時とは随分と変わった印象を持ちました。

生活感のある渋谷といった感じの三軒茶屋は、若い歯科医師にも人気があり、2000年代になり歯科医院が乱立した結果、1次2次診療圏内に55軒の歯科医院が存在しています。日本歯科医師会・歯科医院経営実態調査(H27)によれば全国の1歯科医院の1日当たりの患者数は17.4人ですが、診療圏ソフトの算定では三軒茶屋駅を起点とした徒歩15分エリアの1歯科院の1日当たりの患者数は9人とされます。また東京都福祉局の施設接近度調査によれば東京23区内の歯科医院は295mという数字が出ていますが、この地域では人の流れが活発な茶沢通り、世田谷通り、国道246号線沿いでは、歯科医院の目算接近度は50m毎に1軒ある感じです。

このような過密な診療圏にあって、競合歯科より少し便利な場所であったり視認性に勝っていたりすることは大したアドバンテージではありません。それよりも開業志望歯科医師の診療方針に見合った診療圏であるかどうかの見極めが重要です。自院にどのエリアからどのような生活者が来院してくるのか、そのイメージを持てるかが開業成否のポイントになります。そんなことを念頭にして診療圏を観察してみました。

診療圏ソフトを疑ってみる

現地調査をするための最初の作業は、ソフトウェアで設定された診療圏を疑ってみることです。不思議に思われる向きもあると思いますが、ソフトウェア診療圏を補正する理由は、歯科医師がその立地で医院経営をしていけるかどうかを判断できる現実に基づいた診療圏でなければならないからです。例えば今でも歯科業界で使われる円商圏は、エリアポテンシャルの目安にはなりますが、実際の診療圏とはだいぶ違います。ある地点を起点として徒歩7分で到達できる地点が全方位同じ距離ではないからです。丘陵や坂などの土地の高低、線路や幹線道路、あるいは河川などのバリアを円診療圏は計算していないのです。

土地の高低やバリアを計算しているアメーバー診療圏もありますが、これも円診療圏に比べて実態に則してはいますが、地下道や顧客誘導施設などが多い都市部では補正が必要になります。ソフトウェア診療圏と現場観察をして補正した診療圏では、そこに存在する人口と歯科医院軒数が違ってきますから、事業計画の根拠とする1医院当たりの患者数が違ってきます。患者数の読み違いが開業後の診療方針や経営に影響する場合もあるのです。口腔内の外科処置の際に、X線などの画像情報と口腔粘膜を切開してわかる情報が違い、治療計画を変更するケースもあることと同じです。

【ソフトウェアのアメーバー診療圏】

近年の開業志望歯科医師は、自らの診療方針をイメージできる立地を探すのではなく、便利で目立つ場所探しに終始する傾向がありますが、都市部ではもうそういう立地はほとんどありません。最初に立地ではなく、自らの診療方針が実現できる診療圏を見定め、その中で適正立地を探していく気持ちが必要です。そのために診療圏の補正は、現地調査の基本となるのです。“木を見て森を見ず”ではなく、森も見定めることが大切です。

今回は東急世田谷線(以後世田谷線)三軒茶屋駅前のA地点で歯科医院を開業すると仮定してみます。世田谷線三軒茶屋駅を起点として徒歩7分のエリアは、「太子堂4丁目」から時計回りに「太子堂2丁目」「太子堂1丁目」「三軒茶屋1丁目」「三軒茶屋2丁目」が1次診療圏。2次診療圏を徒歩15分と設定すると、診療圏ソフトでは幹線道路の国道246号線を診療圏バリアとして、A地点南側の診療圏は小さく表示されます。2次診療圏は「若林2丁目」「若林1丁目」「太子堂5丁目」「太子堂3丁目」国道246号線を挟んで「太子堂1丁目」「三軒茶屋1目」「下馬1丁目」、国道246号線と世田谷通りの間の三角地帯「三軒茶屋2丁目」「上馬2丁目」と表示されています。

A地点の診療圏を通勤通学時間帯に現地調査に行き人の流れを見ると、ソフトウェアの診療圏は実態と違っていることがわかりました。A地点を起点とした徒歩15分診療圏の南側は国道246号線で分断されており、西側は世田谷通り沿いの歯科医院がバリアとなり分断されています。さらに東側の池尻大橋側は淡島通り沿いに集中する歯科医院がバリアとなっています。また世田谷線三軒茶屋駅の乗降客のほとんどは改札を出て地上を歩く距離は数十メートルで地下道に吸収されます。世田谷線乗降客の多くは東急田園都市線三軒茶屋駅へは地下通路を利用しています。そのため世田谷線沿線の生活者が地上にあるA地点を認知することは多くはないでしょう。立地Aは駅前ロータリーに面していながら、人の流れは地下道に吸収され、国道246号線沿い、淡島通り沿い、世田谷通り沿いの歯科医院がバリアとなり生活者を分断するために、実際の診療圏は西北側の「太子堂4丁目」「太子堂5丁目」「若林1丁目」「若林2丁目」が補正した1次診療圏になります。A地点での開業はこの現実を踏まえた診療圏を基に考えなければなりません。

診療圏ソフトは便利な道具ですが、実態とは違う場合も少なくありません。ソフトウェアが示したものと現地調査をして補正したもののA地点の診療圏の違いは、下記の【図1】を見れば明らかです。

【図1】

このように実際の診療圏は西北側の「太子堂4丁目」「太子堂5丁目」「若林1丁目」「若林2丁目」になり、立地Aのターゲットエリアになります。次に調べるのはターゲットエリアに沿うロードサイドに集積する競合歯科の力量です。

競合を測る物指しと調査の視点

私はマーケティング・リサーチを

  1. Customer=診療圏生活者
  2. Competitor=競合歯科
  3. Company=自院診療方針

の要素に分けて考え、診療圏調査のフレームにします。前回のブログで包括的に机上調査としていた診療圏ソフト、検索数予測ツール、Google map、総務省データ・市町村人口世帯データなどが、Customer=診療圏生活者や市場性を洗い出す篩(ふるい)です。Customer調査で篩にかけた立地や物件を現場調査してCompetitor=競合歯科を洗い出し、その力量測った上で、この立地で競合歯科に伍してCompany=自院診療方針の実現をイメージでき、診療圏を開拓できるかどうかを開業志望歯科医師に問うことになります。

Competitor=競合歯科の評価には4P分析(図参照)を使います。

  1. Product=得意分野・サービス
  2. Price=治療費
  3. Promotion =広告宣伝
  4. Place=立地・自院訴求エリア

の項目が4Pです。競合歯科と目する医院を4Pで分析して、医院の力量の構成要素を解明していきます。開業志望歯科医師の立地が4P分析をした競合歯科の立地に比べて優位かどうかを比較検討します。

また診療圏内の駅の乗降客数が5万人前後の地域でしたら、地域歯科医院の立地の中でBest4に入れるかどうかが立地選択のポイントになります。Best4を指標とする理由は、地域生活者は通院経験のあるなしとは別に、地域歯科医院の中で4~5軒の歯科医院を認識しているからです。地域生活者が潜在的に認識している4軒の歯科医院の中に割って入ることができない立地の場合、損益分岐を突破して経営が軌道にのるまでに相当な時間と資金がかかります。

近年の歯科開業の失敗は、地域Best4に入る立地でないにも関わらず、過剰な設備投資をして運転資金がショートするケースが大半です。すると商業的アプローチに終始し、自院の価値を下げるという悪循環に陥っていくのです。地域Best4に入る立地かどうか、こんな視点を持って診療圏を歩きまわることも現地調査では重要です。

三軒茶屋駅前で歯科開業をする?

立地A周辺店舗は世田谷線の三軒茶屋駅前ロータリーにありながら、“便利さ 手軽さ 無難さ”を売りにする店舗が少ないことが特徴です。「スターバックス」「サブウェイ」食パン専門店の「銀座に志かわ」「無印良品」など、一定のブランド力のあるチェーン店が多く、こだわりのある人を顧客とする店舗が並んでいます。この特徴は周辺の生活道路にある店舗になるとさらに顕著になり、第5次産業的な店舗が点在しています。第5次産業とは、ザ・リッツ・カールトンホテルやオリエンタルランドなどを代表格とする新たな価値や感動を創り出す企業を意味します。三軒茶屋駅周辺の小規模ながらも第5次産業的な店舗や施設の代表格が、現代演劇と舞踏を中心に上演するシアタートラムです。店舗や施設は地域生活者の民度を写す鏡で、開業志望歯科医師が診療方針を立てる上で認識しておかなければなりません。

このような特性のある店舗や施設が多い立地Aで歯科医院を開業した場合、「太子堂4丁目」「太子堂5丁目」「若林1丁目」「若林2丁目」がターゲットエリアになります。世田谷線の三軒茶屋駅前ロータリーの東側にある西友側から立地を観察するとほとんど人の流れはありません。そもそもこのロータリーに大きな人の流れはなく、茶沢通りからの人の流入も非常に弱いものです。このロータリーでは、「太子堂4丁目」「太子堂5丁目」方面の生活道路から滲み出るような人の流れが主なものです。立地Aの目の前の通勤通学時間帯の世田谷線の乗降客の流れのほとんどは、改札から数十メートル歩き田園都市線に通じる地下道へ吸い込まれていき、ロータリーに流入することはありません。

立地Aの競合歯科の多くは茶沢通り沿い(周辺)に在ります。茶沢通り入り口から下北沢方面まで約300mの間に通りに沿って8医院が存在しています。このエリアでは最も生活者の流れがある茶沢通りですが、そこにある歯科医院のほとんどは飲食店に埋もれてしまい視認性は弱く、アプローチも良くありません。各歯科医院は生活者からの利便性を期待しての立地選択だったのでしょうが、わずか300mの間に歯科医院が乱立してしまい、生活者からの視認性が高いどころか、歯科医院同士の接近度が50mを切り、業態価値を低く見られるアナジー作用が起きている立地になっています。その一方「太子堂4丁目」「太子堂5丁目」の生活道路に面している立地Aの競合歯科6軒は、地味ながらも自宅1階開業とアプローチも良好で、一定の来院者を確保していると予測されます。【図2】

【図2】

世田谷線三軒茶屋駅前立地Aの現地調査をまとめると以下のように、診療圏(エリア)はいいけれど、立地は平凡という結果になり判断に迷うケースです。

  1. 診療圏の人の流れは地下道が中心
  2. 診療圏は外食チェーン、コンビニ、美容院も多くエリアポテンシャルは高い【図3】
  3. 診療圏の生活者の民度は総じて高い
  4. 診療圏は西・北西方向に広く北東から南西方向に向けて狭い
  5. 診療圏は歯科接近度が目算50m程度で業態価値が下がっている
  6. 診療圏の競合歯科の4P分析は標準的
  7. 診療圏検索キーワードは「三軒茶屋・歯医者」で約1600回と低い
  8. 立地Aは人口量も多く人口動態も良好だが人の流れは少なく視認性は弱い
  9. 立地Aのターゲットエリアの歯科医院は利便性の面では強い
  10. 立地Aに競合する茶沢通り集積歯科医院はアナジー作用を起こして弱い

【図3】

こういった場合、三軒茶屋で1か月当たりの歯科のキーワード検索回数を調べて、判断の補助線にします。「三軒茶屋・歯医者」で約1600回、「三軒茶屋・矯正歯科」で約200回、「三軒茶屋・インプラント」で約20回、と各キーワードの検索回数は多くはありません。新規開業の際にネットで認知してもらうには時間のかかる診療圏と予測されます。

さて、あなたなら三軒茶屋駅前で開業しますか?
私なら運転資金が固定費の12か月分用意できたら開業します。
その理由はエリアポテンシャルも生活者民度も高い割には、A地点の競合歯科が平凡だからです。

歯科医院そんな立地調査でいいの?(1/2)
120分で人気スポット三軒茶屋を調査する

立地と開業資金の関係

この2~3年、開業後1年も経過していない歯科医師からの相談が多くなってきています。主な相談内容は、患者数が増えないために事業計画の下振れ案からさらに低迷する現状への不安です。こういったケースは、ほとんどが立地選定の甘さによるもので、加速度的に経営は悪化して、経営不安が経営不振に、そして経営破綻となるケースさえあります。

その理由の一つには、開業資金の按分に問題があります。開業時の設備資金の比率が多いあまり、経営不安を早期に解消する資金が十分に持てないことにあります。開業地のエリアポテンシャルが高く、さらに資金調達が可能であれば、エリア内での立地選定をやり直し、早期移転を奨める場合もあります。そこまで決断できない場合には、商業的施策を提案することになります。それさえも資金的に難しいとなると、診療時間を増やして訪問診療もする、スタッフを減らし人件費を削る、といった持久戦しか打つ手がなくなります。手持ち資金がないために、ずるずると負の連鎖に巻き込まれてしまう典型例です。

開業資金の按分は、後から手当てしづらいものから分配していくのが鉄則で、

  1. 立地
  2. 運転資金
  3. 人材
  4. 設備(医療機器・内装)

といった優先順位をつけて考えます。ところが歯科界では習慣的に設備から資金配分をしていくために、立地選定や運転資金の予算が十分でない場合も少なくありません。そのためにエリアポテンシャルの低い立地で開業したり、経営再建する資金がなかったりして低迷を続けていきます。開業は二期で考えて、一期でビジネスの仕組み(人が集まる場所選びと仕組み)を作り、二期で医療方針を確立するための設備資金を投入するのが良いでしょう。ビジネスの仕組みができていないと、どんな高邁な医療方針を掲げたところで、常に経営に圧迫された商売臭い歯科医院運営を続けていくことになります。

よほど知名度の高い歯科医師でない限りは、設備資金を優先する習慣は改め、ビジネスの仕組みができる資金配分をするべきです。またネットによる患者集めも必要な時代ですが、ネット頼りの起業には無理があります。それは実際に開業している歯科医院の検索キーワード分析や患者アンケートからも明らかで、歯科医院の前を通ってその存在を認識しホームページで医院の内容を確認し来院してくる人が圧倒的に多いからです。一般歯科医院ではどんなSEO対策よりも立地効果の影響の方が大きいのが現実です。

120分立地調査の流れ

立地調査は机上調査後に現地調査を行いますが、首都圏では約90%の物件が机上調査段階でオミットされます。机上調査は鳥の眼で診療圏全体を俯瞰して客観的評価に活用しますが、それ以上のものではありません。「木を見て森を見ず」の「森」の大きさを知るための利用です。現地調査は虫の眼で、森の中に入って「木」を見ていきます。診療圏に密着して人の流れを調べたり具体的な患者像をイメージしたり、さらに臨床や経営のヒントを見つける作業です。歯科のように飽和している市場では、現地調査の精度が開業後の臨床や経営への成果に結びついていきます。この段階で、経営のアイディアが浮かばない立地は、診療圏ソフトのデータ内容が良くても見送ることにします。あくまでも診療圏ソフトは立地調査の効率化に役立つレベルのものだからです。

机上調査では、診療圏ソフト→検索数予測ツール→Google map→総務省データ・市町村人口世帯データの順で候補物件を篩(ふるい)にかけていきます。下記【都市部の立地調査のポイント】の1~4が机上調査に当たります。現地調査は住宅地図とGoogle mapを使用して、初回は通勤通学時間帯に5~7を調査します。都市部の狭い診療圏、今回の三軒茶屋などでは、この一連の作業約120分で、おおよその候補物件の可能性がわかります。机上調査を1次評価、現地調査を2次評価、そして2次評価で評価が高かった物件を比較評価して開業物件を絞り込んでいきます。

都市部の立地調査のポイント

1.市場規模と質

  1. 徒歩7分~10分、または半径1km程度の1次診療圏とした人口量
  2. 一次診療圏人口の年齢・家族構成・世帯居住状況

2.顧客誘導施設

駅・商業施設・公共施設・交通量の多い道路や交差点など

3.視認性

通行人やドライバーの目線に入るか入らないか

4.webマーケティングリサーチ

「地域名or駅名と歯医者」での検索件数量

5.動線

顧客誘導施設への通行人/交通量が多い道路の把握

6.建物/アプローチ

  1. 原則1階、または視線の届くエレベターのある低層階
  2. 施設への入りやすさ入りにくさ
  3. 駐車場のあるなし・台数

7.競合

  1. 競合歯科の立地環境
  2. 競合歯科の規模
  3. 競合歯科のネット検索件数

相乗りマーケティングリサーチ

歯科医院のような小規模な事業体では、大手チェーンの店舗開発部隊のような商圏調査は不可能ですし、歯科関連業者の診療圏調査も精度が高いものではありません。そこで、調査力の弱い歯科は、他業種のマーケティングリサーチに相乗りして、診療圏調査の精度を上げることをお勧めします。

私の場合、行政データを噛み砕いた上で診療圏調査の補助線にするのは、セブン-イレブンとマクドナルドの出店状況です。セブン-イレブンの店舗開発は一貫して人口量重視で、ローソンやファミリーマートと比べてその基準がはるかに厳しいことが、セブン-イレブンの強さと言われています。そのため他のコンビニに比べてセブン-イレブンは、人口量の多い地域にはそれに比例して店舗数が多いという相関関係が顕著です。時に歯科開業立地でコンビニ跡地が出回っているのを見受けますが、セブン-イレブンの跡地はほとんどありません。それぐらいに人口量には厳しい店舗開発をしています。

マクドナルドも人口量重視の出店が顕著です。2010年にマクドナルドが店舗の再編をした時には、約400店舗を閉店し、約600店舗を立地のよい場所に移転しました。店舗が長く売上げを維持していくには立地しだい、売上=立地という単純明快な基準を企業の生命線にしています。

セブン-イレブンもマクドナルドも人口量が多く人口が減少傾向でない場所を選択し、その上で生活者から認知されやすい場所に出店しています。生活者が「どこに行く」のタイミングで思い出してもらうには、記憶に残っているかどうかにかかっているからです。よい立地にあること自体が看板を出していること、ネット検索の上位にいることと同じことだからです。

立地の力は日経新聞や週刊ダイヤモンドのアンケートからも明らかです。生活者が飲食店を選ぶ理由の約8割が「そのお店が便利な場所にあるから」で、味や接客の良さを大きく上回っているのです。歯科医院は単純に飲食や物販とは比べることはできませんが、便利な場所=安全な場所という生活者意識は、医療サービスである以上無視することはできないでしょう。

おまけのマーケティングリサーチ

自由診療収入が見込める歯科医院経営では、地域生活者の平均所得は気になるところです。東京23区において、平均所得1位は約1,126万円の港区で最下位は約340万円の足立区です。それならば平均所得の高い港区で歯科医院を開業した方が経営上は優位になるようですが、そうとも言い切れません。港区の平均所得を釣り上げているのは超高額所得を得ている企業経営者などで、多くの生活者の所得は400~500万円台です。足立区の平均所得は23区内で最下位ですが、23区のうち12区は足立区と同じ平均所得300万円台ですから、足立区が突出して低いわけではありません。所得の場合は平均値ではなく中央値で見ることが生活者の直感により近くなるデータの見方です。健康保険収入を主とする歯科医院経営では、人口量が所得以上に経営インパクトになるために、人口が港区(歯科605施設)の2.7倍ある足立区(歯科379施設)で開業する方が、歯科医院にとっては優位といえるでしょう。因みに今回現地調査した三軒茶屋のある世田谷区は、人口順位東京23区内で1位の約90万人、人口上昇率0.8%で12位、平均所得554万円で7位、歯科742施設となり、歯科経営ポテンシャルは港区よりは高いけれど足立区よりは低いといえます。

23区 平均所得(万円) 人口(万人) 歯科医院数(軒) 歯科1軒あたりの人口(人)
1,126【1位】 25【17位】 605【2位】 403【21位】
世田谷 554【7位】 90【1位】 742【1位】 1212【13位】
足立 340【23位】 68【5位】 379【9位】 1794【2位】

ついでのマーケティングリサーチ

私が現地調査の補助線にするセブン-イレブンはコンビニの雄ですが、そのコンビニより店舗数が多い業種で常に挙げられるのが歯科医院と美容院です。全国のコンビニ数は約57,000軒、歯科医院は約69,000軒、美容院は約247,000軒です。美容院の店舗数は飽和市場の歯科よりも約3.5倍も多く、都心では「10歩あるけば歯科、3歩あるけば美容院」といった状態です。それでも美容院がなんとか経営していけるのは、美容師1人につき最低30人の顧客を持ち、客単価の高い女性に月1回来店してもらい、しっかりと顧客を回しているからです。また、設備投資は極端にいえば、鏡とシャンプー台、そしてハサミがあれば材料もほとんど使わないために、立地に資金投下できるのです。その特徴は居抜き開業が非常に多く、開業に資金をかけないことに現われています。つまり美容院経営の肝は、設備投資を抑えて立地に資金を投入し、限定した顧客を確実に回していくことにあります。これは歯科医院の現地調査の補助線になるような気がします。

よけいなマーケティングリサーチ

「年金だけでは老後資金が2,000万円不足する」と試算した金融庁の市場ワーキンググループの報告書を巡り、世の中は騒然として政府が火消しをすればするほど現実味が増して、私たち社会の未来像が浮き彫りにされました。日銀の金融広報中央委員会によると、70歳以上の金融資産の平均値は1,768万円ですが、中央値となると680万円です。厚生労働省「国民生活基礎調査」で年齢別の貯蓄金額を見ると、貯蓄額を2,000万円以上保有している70歳代の割合は18.6%となっていますから、金融庁の言うことは的を射ています。これでは歯科医院経営の頼みの綱の自由診療比率の向上は、極めて厳しいように思えます。現地調査の要素に自由診療の補助線を安易に入れることは控えなくてはなりません。

人気スポット三軒茶屋をウォッチングする

次回のコンサルblogは、今回紹介したマーケティングリサーチをベースに東京の三軒茶屋をウォッチングして、歯科医院開業の可能性を探ってみたいと思います。