歯科医師は「虫歯」表記をやめて仕事の価値を高めよう

コンサルブログ | 2019年12月11日

元議員でタレント杉村太蔵のおもしろさは「何をどれくらいまで考えているのか」見当がつかないところにあり、かの長嶋一茂の魅力と同類と言っていいでしょう。杉村も長嶋も熱く語るほどに墓穴を掘るタイプですが、そんなことに動じる風もない「今時の人」です。この手の人は総じてディベートに弱く、TV局もそれを見越していて、彼らの話、とりわけ討論では想定通りの論理破綻が起こります。論理破綻する人は物事の本質が見えていないものです。しかし、そんなことはどこ吹く風が彼らの真骨頂で、明るい困惑ぶりが並のタレントにはない育ちの良さを感じさせ、彼らの生命線となっています。そういえば今時の人、杉村太蔵は代々続く歯科医師の家系です。

今時の歯科医師も杉村太蔵タイプが増えてきたように感じます。最近、子息が歯科医師になった私の小・中学校の先輩の整形外科医にそのことを問うと「うんうん」と相槌をうちながら、「タレントなら“底知れぬ見当のつかなさ”は魅力だけれど、歯医者が見当のつかないことを言っては困るよね」と、なにか切実な感じ。子息の歯科医師は、噛み合わせ治療を専門に開業して、隣接する父親の医院のCTを使っては、噛み合わせと全身のウンチクをレントゲン技師に語っている様子。そんな子息の言動に“底知れぬ見当のつかなさ”を感じたのか、探偵事務所にするかのように「息子に探りを入れて欲しい」と言われ、子息の歯科医師(私の小・中学校の後輩)に会うことになりました。

その後しばらく連絡はありませんでしたが、突然連絡が入り「思うことがあり診療方針を変えた」ので、ついてはホームページをリライトして欲しいと頼まれました。
「研修医から2~3年の歯科医師が『噛み合わせ』から全身改善を臨床で取り込むことは危ういことだ」と、本心を言えば臆面もなく若い歯科医師が「全身」のことを知ったように語ることは滑稽ですらあるのですが、2年前に診療方針の変更を促した手前、彼の依頼を無下に断ることもできませんでした。再会して彼の話を聞くと「噛み合わせと全身」が終わったと思ったら、次亜塩素酸機能水による歯周病治療で予防歯科に取り組みたいとのこと。「全身」が終わったと思ったら「水」療法では、麻疹が治ったら風疹にかかったような感じです。どちらも一足飛びに成果を求めたり起死回生を意図したりする歯科医師がよくかかる感染症です。なぜこの歯科医師はこの若さでこうも亜流、傍流を歩もうとするのか不思議でしたが、この時は日本歯周病学会の機能水に関する見解などを示し、歯科医師として、しかもその若さで安易な方法に飛びつくのではなく、患者が歯周病になった原因を考え、根本原因を除去する臨床を優先することを勧めると、不承不承なんとかおさまった感じでした。

歯科医師が根拠薄弱な「全身」や「水」療法を臨床に取り入れると、患者への影響以前にスタッフからの信頼が落ち、人が集まらなくなること、やがて経営が立ちいかなくなることを説明し、そんなことならば商業施設で便利な歯科医院を目指した方が、まだ“世のため人のため自分のため”になると話すと、「それだけはプライドが許さない」とのこと。非合理な治療方法を棚に上げて“底知れぬ見当のつかなさ”です。そんなやりとりを繰り返し、歯科医院経営の基本に戻り予防のあり方を考えながら、歯科医院の方針を考え直すことになりました。歯科医師に口述してもらいテキストを起こし、それを私がリライトして本人に確認してもらいました。

しばらくして戻ってきたリライトした予防ページを確認すると、文体と内容は元のままでしたが、テキストの全ての「むし歯」表記が「虫歯」になっていたので問いただしました。すると「SEO対策」です、とのこと。どういうことか説明すると、Googleでは「むし歯」よりも「虫歯」で検索される確率が20倍も高いのです。つまりネット検索する人が「むし歯」より「虫歯」で検索する場合が圧倒的に多いため、歯科医院のホームページも「虫歯」表記にした方が、生活者を自院のホームページに誘導しやすいという論理です。ホームページを「虫歯」だらけにするのはSEO業者の勧誘テクニックの“いろは”です。立地的に便利な歯医者として経営することはプライドが許さないと言いながら、インターネット上では検索されやすい便利な歯医者になることを目指すとは、“底知れぬ見当のつかなさ”です。

古語に「虫嚙歯 (むしかめば)」という語彙があり、植物の葉が虫に食われるように、人の歯も黒く溝ができたり穴が開いたりすることを指しているのを「虫に噛まれた歯」「むしばむ」「虫歯」と、なったと物の本にあります。そのことを「虫が歯を食べることでむし歯ができる」と子供達が誤解する恐れがあるために、全国小児歯科開業医会が日本学校保健会や日本学校歯科医会と協力して「むし歯」表記が世の中で広まってきた経緯があります。歯科界の先進が正しい医療的見地を社会に伝えてきた流れを、後進の歯科医師が自院の経営のためなら逆行することも厭わないとは。“底知れぬ見当のつかなさ”では済まない、世の中を欺く行為ではと話すと、わかったような、わからないような表情です

彼の主張をまとめると、SEO対策だけのことではなく、「虫歯」の字体そのものが「むし歯」の存在をよく表現しているというのです。つまり彼の頭の中のむし歯には「齲窩」がドーンとあって「齲蝕」にはアイデンティティーがないのです。専門家の歯科医師に対して、それ以上むし歯について説明するのは控えましたが、彼は今時の歯科医師にして昭和の歯医者なのです。そういえば長嶋一茂も、eスポーツをスポーツでないと断言して、「スポーツとは全身を使って筋肉痛が起きたりして全身を進化させていく行為」といった概要のことを言っていましたが、この発言は歯科医師が「齲窩」を「虫歯」とするのと同じで、スポーツの本質が見えていないのでしょう。

歯科医師が「むし歯」を「虫歯」と表記することは、専門家が正しい医療的見地を社会に示していないことになります。習慣的に「虫歯」と書いている人もいるでしょうが、ホームページのSE0対策のために「虫歯」表記をする今時の歯科医師は、杉村太蔵が衆議院議員に初当選した時に「グリーン車乗り放題、料亭に行ける」と発言したのと同じレベルです。自分の仕事の本質が見えていないのです。そんな今時の歯科医師を指して“見当のつかなさ”と形容するのは適当ではなく、正しくは“見当違いもはなはだしい”と言うのでしょう。
歯科医院のホームページから「虫歯」表記なくしてインターネット上でも「8020」を目指して欲しいものです。