企業連携がもたらす予防歯科のAnother story

コンサルブログ | 2020年3月30日

企業との連携による予防歯科推進プロジェクトの一環として、富士通社の社員向け健康セミナー 「令和時代の予防歯科」が、去る1月30日に富士通株式会社 東北支社で開催されました。

「企業との連携」とは、端的に言えば、これまで歯科業界の論理で繰り広げられてきた予防歯科フレームを、もう一度社会の論理から徹底的に見つめ直す試みです。

社員セミナーの1ヶ月後、富士通健保組合、富士通ヘルスケアグループ、富士通関連の健康支援企業ベストライフ・プロモーションの面々から富士通社員の健康管理と予防歯科への取り組みについて話を聞く機会に恵まれました。その中で、歯科関連ではない企業内部で予防歯科のAnother storyが育っていることを知りました。そこで煮詰まりつつあるのは、むし歯と歯周病を集団でアンダーコントロールする新たな試みです。このようなプランが、ICT企業の中で着々と進められているのは驚きですが、その一方で歯科業界は業界関係者で鬱々としていて新しい試みもなく、「内向きだなあ」という思いも抱かずにはいられません。そんな忸怩たる思いも忘れて話を聞き入ってしまったのは、富士通社の面々の口腔の健康に対する問題意識の高さ、社会変化の中で予防歯科を捉える複眼思考によるものでした。

歯科業界の予防歯科を捉える視点は、学校歯科健診から地域歯科医院へ、そこから地域社会へ落とし込んでいく流れです。この昭和から平成にかけて敷かれてきた予防歯科の動線は、人口減少が始まる2004年以前は有効に機能してきたとされています。ところが「8020」のスローガンの下「生涯自分の歯で・・・」と考えると、ここには決定的な矛盾があることに気がつきます。第一には、生活者は小学生から中・高・大と学校教育を経て成長する過程で予防歯科への関わりが逆進的に薄くなること。続いて、社会人へのスタートラインに立った青少年の大半は生まれ育った地方自治体から離れ、その瞬間から「どこの歯科医院へ行けばいいの?」か、わからない歯科難民になり、食べログで飲み屋を探すように歯科医院を検索しだすこと。そこで運が悪いと、地方自治体が育てた青少年の健全な口腔内は破壊され、歯科業界全体の信用不安になることもあります。

健康な口腔の青少年は、社会人へと成長するに従い「歯医者なんてサービス業だ」と思い、むし歯と歯周病のアンダーコントロールは弱くなっていくのが、現在の地方自治体が敷いた動線です。昭和・平成で敷設されたこの動線は、生活者が半径数キロメートルの範囲の中で「家-地域公立校」を中心として生きてきた社会には適合してきました。しかし、総人口がドラスティックに減少して、「地域公立校」の減少に象徴される地方自治体の崩壊、さらに女性の社会進出による従来の「家」が変化しつつある社会では、学校歯科健診だけでは用をなさなくなってきています。

歯科業界の「8020」というスローガンはよしとしても、未だに社会人となり80歳までの歯科医院への動線を社会変化に準じて敷けていません。そのため50歳以降は2年に1本強のペースで歯を喪失していきます。そんな現状の中、メディアを通じて「8020」をPRすればするほど歯科業界は、学校歯科健診に代わる社会的インフラづくりの無策を忘れていくようにさえ思えます。

「8020」を達成するためには「8020」の数字を逆にした20歳から80歳への予防歯科への動線「2080」が肝心要であることを見過ごしています。青少年が社会人となってから60~70歳の定年まで活動する世の中は、GDPの7割を占めるサービス業が主となる企業社会です。ですから、社会構造が変化した世の中で「8020」をPRしたので、「あとは自助努力でよろしく」では、相手が企業だけに一歯科医院では手に余るわけです。何かと患者とのコミュケーションが大切とうるさい歯科業界ですが、社会全体とのコミュケーションは明らかに失敗しています。

玉石混交の情報が錯綜し、崩壊しつつある地方自治体を抱える社会の中で、「8020」への合理的な動線を示せなければ、生活者が真っ当な歯科医院に辿り着く道理はないのです。「8020」を政策として機能させるには、学校歯科健診から他の地方自治体や中央に繋げる新たな動線づくりが重要になることは確かなことです。

それだから企業連携と言われても、そんな空疎な概念に振り回わされるのではなく、もっと身近な地域の人のために歯科医師として生きると言う人もいるでしょう。デジタルデンティストリーに代表されるテクノロジーで口腔の健康と審美性を向上させると言う人もいるでしょう。ローカリズムもテクノロジーも大切なことは百も承知しています。しかしその価値と成果は、青少年が社会人になるまでで完結するわけではなく、「家~学校歯科健診」以外の「つながり」を築き、80歳までの動線を示して初めて完結するのです。このつながりは企業以外でもいいのですが、歯科医院にある健康保険証の写しには、組合健保と協会健保のものが少なくないことからも、企業というコミュニティーへの動線は極めて合理的な一手であると思います。

今、歯科業界がやるべきことは何を差し置いても「8020」を達成するための動線の敷設です。学術論文を読み、データの数字をエビデンスとする真摯な歯科医師ほど、社会構造の変化そのものが、生活者の口腔に与える影響が大きいことを認識しているはずです。しかし、学術の話と社会の話は全く次元が違うものですから、歯科医師は歯科業界の外から、社会の変化を受けとめてみるといいでしょう。そんな観点からの企業連携という新たな動線づくりは、予防歯科のAnother storyを歯科業界に示そうとしています。