SNSに夢中な歯科医院と、それを冷静に見ている若者たち――バイアス、かかっています。

インフォメーション | 2026年10月23日

先日、歯科衛生士学校の就職説明会に参加し、これから歯科衛生士になろうとする学生たち十数人と話をした。彼女たちもSNSは見る。ただし、暇つぶしか、せいぜい参考程度。真に受けることはないという。むしろ、過剰な演出が目につく歯科医院を「ステマをやっている医院」と見ている学生もいた。そういう医院は、最初から就職先の候補に入らないという。

では、何を見て就職先を決めるのか。答えは驚くほど一致していた。友人や知人から聞いた話、そしてホームページ。最後は医院見学で決める。SNSは見るが、信用するかどうかは別の話なのである。

これは学生に限ったことではない。就職して間もなく転職する歯科衛生士からも、似た話を聞く。

ある歯科医院では、患者さんに口コミを書いてもらうと、1件につき500円がスタッフのボーナス査定に加算されるという。それが積み重なるうちに、気味が悪くなって辞めたという歯科衛生士がいた。

患者さんからの評価を集めるために、スタッフに報酬を与える。医院側にすれば合理的な仕組みなのだろう。しかし、その仕組みを日常的に見せられているスタッフは、何を感じるのか。患者さんからの信頼を数字に換え、その数字をスタッフの評価に換える。いつの間にか、医療の評価そのものが営業成績のようになっている。

患者さんから信頼されるための仕組みが、そこで働く人の信頼を失わせている。なかなか皮肉な話である。

一方、歯科医院の経営者や歯科コンサルタントは、SNS対策や口コミ獲得に熱心である。フォロワー数を増やし、Googleの評価を上げ、動画の再生回数を競う。それが患者さんの獲得や採用につながると信じている。SNSの運用を外部に委託し、毎月それなりの費用を支払っている医院も少なくない。

しかし、その情報を受け取る若者たちは、すでに演出の仕組みを見抜いているのではないか。少なくとも、今回話を聞いた学生たちは、歯科医院が期待するような受け取り方をしていなかった。求職者に見抜かれる演出が、患者さんには通用するとでも思っているのだろうか。

学生たちのこの冷静さは、日本だけの現象ではないのかもしれない。

「ブレインロット(Brain rot)」という言葉がある。直訳すれば「脳腐れ」。SNSなどで質の低い情報を過剰に消費することによって、思考力や知的能力が低下するという懸念を表す言葉である。オックスフォード大学出版局が2024年の「今年の言葉」に選んだ。

世界では、SNSとの付き合い方を見直す動きが広がっている。オーストラリアでは16歳未満のSNS利用制限が始まり、イギリスやフランス、デンマーク、スペインなどでも規制や制度整備が進んでいる。SNSは便利なコミュニケーションツールである一方、過剰な情報消費や依存、有害コンテンツへの接触など、社会がその代償を考え始めたのである。

ロンドンに住む息子から、興味深い話を聞いた。日曜日には図書館の開館を待つ人たちが並び、地下鉄に乗れば、一つの車両に何人かは本を開いているという。スマートフォンばかり見ていると思っていた若者たちの風景とは、少し違うようだ。

日本はイギリスの社会の変化を、数年遅れて追いかけると言われることがある。しかし、今回の学生たちの話を聞いていると、少なくとも若者の感覚については、そんな時間差など存在しないのかもしれない。

そもそも、医療機関の情報発信は何のためにあるのだろう。自分たちをよく見せるためなのか。それとも、患者さんや求職者が、その医院を正しく理解するためなのか。この二つは似ているようで、まったく違う。

歯科医院のホームページも同じである。院長やスタッフの笑顔を何度も登場させ、患者さんの評価を並べ、医院の素晴らしさを繰り返し訴える。長いページをスクロールしても、結局、その医院がどのような医療をしているのか、よくわからないことがある。そうしたホームページを作ってきたのは、ほかならぬ私たち歯科コンサルタントやウェブ制作者である。

医療機関の信頼は、露出の量で決まるものではない。何を考え、どのような医療を実践しているのか。そして、それが日々の診療にどれだけ反映されているのか。学生たちが友人や知人の話を聞き、ホームページを読み、最後は自分の目で医院を確かめようとするのも、考えてみれば当たり前のことである。

日本の若い歯科衛生士学生たちの中には、情報の演出に冷ややかな視線を向ける人たちがいる。それなのに、歯科業界では、SNS対策を最先端のマーケティングとして売り込み、医院もそれを追いかけている。

若い世代が変わったのか。それとも、私たちが若い世代の変化に気づいていなかっただけなのか。

SNS対策に躍起になっている歯科医院と、それを商売にしている私たち歯科コンサルタント。トップ集団を走っているつもりが、気がつけば周回遅れになっている。

そろそろ、そのことに気づかなければならない。

Enjoy Consulting