慢性期歯科医療のカウンセリングの常識

コンサルブログ | 2018年9月19日

カウンセリングは歯科医師の専権事項

欠損補綴カウンセリング事例

日々の臨床でよくある事例として、下顎6番の欠損補綴を挙げてみます。

はじめに私は、歯周病、接着歯学、クラウンブリッジ、デンチャー、インプラント、予防歯科、顕微鏡歯科などの臨床系セミナーを主催したり受講したりした経験が一般的歯科医師よりは多いのではと思いますが、体系的に歯科医学を学んだことのない浅学な歯科の素人です。その私の見解は以下のようになります。

下顎6番の欠損補綴には、一般的には「ブリッジ」「1本義歯」「インプラント」「部分矯正」、そして消極的選択として「何もしない」という5つの選択肢があります。各選択肢で使用する歯科材も考えるとさらに多くの選択肢があります。
このケースでインプラントを選択した場合、将来、臨在歯が欠損したり反対側が遊離端欠損になった場合、その箇所もインプラントが埋入されるケースが多くなる傾向があります。しかし、このケースでは、5番や7番、対合歯の歯根膜負担、粘膜負担、オッセオインテグレーション、これらの咬合力負担域が混在することの是非を考えインプラントを選択しなければなりません。一方、現状の体調、服薬、既往歴などからリスクファクターとなる全身疾患がなく、口腔内に他に大きな治療が必要な部位もなく、将来に渡っても口腔の衛生管理がしっかりできると思われる患者さんで、経済的にも恵まれていると判断したならば、インプラントを最適な治療として勧めるのが合理的カウンセリングと思います。つまり6番の補綴を考える場合、5番・7番と反対側の状態を考えた上で総合的に判断しなければならないのです。

一般的歯科医師も上記と同様の見解を示す方が多いと思います。治療計画を説明するコデンタルスタッフにも、同程度の歯科の総合力が必要とされることになります。

カウンセリングに求められる知識

先の事例を考え患者さんにカウンセリングするには、歯科に限らずさまざまな知識が必要になります。一般的歯科医院でカウンセリングをする場合、「歯周治療や歯内療法などの基礎工事的治療は健康保険を適用して補綴は自費で行う」ことを目的とする場合が多いようです。この場合健康保険の治療順序に準じていないと、保険請求できないこともあります。補綴材料と治療費をカウンセリングする場合、そこに至るプロセスと治療順序を理解して説明することが多く、健康保険の制度についても熟知しておく必要があります。

臨床に関しては、X線画像をはじめ各検査画像の読影が必要になります。これができなければ患者さんに的確な説明ができないだけではなく、歯科医師との打ち合わせにも支障が生じます。また、歯内療法、歯周治療、外科などの臨床系の学術も基本的事項を理解していないと患者さんに合理的な治療説明はできません。最終段階の補綴に関しては、補綴材料とその見た目と費用だけではなく、歯科技工的知識として機能や構造力学も求められます。

さらに歯科診療が急性期から慢性期医療へ変わるに伴い、全身疾患との関連から生理学や薬剤の知識も必要になってきます。このように挙げていくと、コデンタルスタッフがカウンセリングするにも、歯科医師と同程度の知識が必要になってきます。そうなると、必然的にカウンセリングは歯科医師の専権事項ということになります。

カウンセリングの教本やセミナーでは、合理的説明を患者さんにするための歯科知識を学ぶ以前に、コミュニケーションや信頼感を築くことの重要性を説く傾向があります。それは受講者が歯科で働くコデンタルスタッフで歯科知識があるという前提だからでしょうが、現実は治療計画を立てられる幅広い知識を持ったスタッフは限りなく少ないと思います。医療では確実な知識や経験を身につけることなく、患者さんとの信頼関係を拠り所に治療計画をすることなどコンプライアンスの点からありえない行為です。心臓外科や他科でしたら犯罪的行為なわけです。

かたや歯科が生活医療であるということを割り引いても、カウンセリングセミナーや教本で、カウンセリングを導入する理由は、「患者さんにとって最善の治療を提案するため」と説明し「その結果が自費補綴になる」と結論付けているようですが、詭弁に過ぎません。

その証左として、初診患者の多い医院の治療の7~8割は、感染根管処置不備から歯冠修復の再治療で来院している現実があります。どれほど自費で修復物の材質と審美性(一応)をよくしても土台の治療を簡略化すれば、その歯の予後は予想以上に悪くなることはあっても良くなることはないのです。真に「患者さんにとって最善の治療を提案する」のならば、保険では採算ラインに乗らない根管治療を十分行うために、根管治療の自費を勧めるべきです。根管治療に自費を勧めない理由は、根管形成と充填の処置時間が予知しづらい上に、一連の治療に保険が使えなくなる事情が見え隠れします。

「結果としての自費補綴が最善治療とするカウンセリング」も補綴までの過程の歯周病治療や歯内療法などが簡略化されていれば「患者さんにとって最善の治療」になる道理がないのです。「患者さんにとって最善の治療を提案し、その結果が自費補綴になる」、この文脈は、詭弁にすぎないと歯科医師ならば誰しもわかっているはずです。

そういったカウンセリングを支持する背景には、歯科医師が治療内容に関して「これで良い」とするレベルに大きなバラツキがあることが挙げられます。このバラツキは各医院の技術の自己評価と倫理観によるもので、その上に、高額化する医療機器などへの設備投資、立地競争による高額な地代家賃、人手不足により上昇する採用・雇用費用などの経営的負荷が加わり、治療の「提供基準」ができています。その中で、設備投資・地代家賃・人件費などの経営的負荷が高い医院ほどカウンセリングを容認して、所定の手順を踏まない簡略化した不確実な診療を行うケースが多く、それが保険行政から標準的な歯科診療と見なされ、保険診療が低点数に固定されていく負のスパイラルに陥っていく一因にもなっているのです。

基本的なカウンセリングの流れ

基本的にはカウンセリングは、診療室における治療の流れに準じて行われます。

1初診来院→2口腔内検査→3治療計画立案→4現状説明→5治療計画説明→6治療計画決定→7治療→8メインテナンス

上記が歯科カウンセリングの流れで、この流れは一般的歯科診療に準じたカウンセリングの流れです。あまり頻繁なカウンセリングは患者さんにも医院側にも負担が大きくなりますが、1~2回のカウンセリングで補綴までの治療計画を決定することは、現代歯科医療の診療の流れからも、患者さんの理解度や心情からも無理があります。

この流れをSTEP1~4に分けて患者さんには説明していきます。

Step1 初診来院→Step2 口腔内検査/治療計画立案→Step3 現状説明/治療計画説明→Step4 治療計画決定/治療/メインテナンス

各STEPのポイント

STEP1

  • 予診票から患者情報・ライフスタイルを読み取り来院理由を明確にする
  • 予診票に記入した文字の大きさ丁寧さや文字量などに注目する
  • 患者さんの受け答えの声のトーンに注意する
  • 家族構成とライフスタイルに留意して治療計画を立案する

STEP2

  • 歯科医師とコデンタルスタッフに対する患者さんの態度の違いを観察する
  • 健康保険、歯科治療、口腔衛生、予防歯科、一般医療に関する幅広い知識が求められる
  • 患者さんにも歯科医師にも説明できる検査画像読影力と診断能力が求められる
  • 初診時に壊滅的な口腔内の患者さんにも丁寧に説明して治療計画を立てる

STEP3

  • 現状説明では患者さんの治療に対する本気度や個性を観察する
  • 今回の治療に関係ない部位の自費補綴物を入れた状況を聞く
  • 歯科医師の治療計画の代弁者というスタンスを崩さない
  • 患者さんが治療計画を保留にしたり断れる逃げ道をつくる

STEP4

  • 治療が必要だが患者さんの希望で今回治療しない部位も、善管注意義務の点から「要処置部位」であることを伝える
  • 自費治療の支払い方法や補償制度があれば説明する
  • メインテナンスの適正期間と、セルフメインテナンスとプロフェッショナルメインテナンスの両立の説明
  • 高齢化社会では、治療終了から患者さんと歯科医院が新たな関係を築いていくことの大切さを説明する

上記の各ステップのポイントを踏まえた上で、コミュニケーション能力をつけていくことが医療機関としてのカウンセリングの常識と考えます。このようなプロセスをカウンセリング専任のコデンタルスタッフに教授して理解させることは非常に難しく、業務プロセスの上でも合理的とは思えません。何よりも患者利益を真剣に考えるのならば、受付スタッフと各プロセスにおいて歯科医師と歯科衛生士が分担してカウンセリングを行うことが合理的な方法ではないでしょうか。