標準予防策からPR材とインテリアを見直す

コンサルブログ | 2020年7月21日

「目あたらしさ」だけではPRにはならない

人はしばしばまちがいをおかしますが、初動でのまちがいは将来を規定することになります。窮状を訴える歯科医院の相談を受けていると、いろいろなまちがいのうちでいちばんやっかいなまちがいは、ものごとがスタートしたときに起こることがわかります。開業時にはまちがいという認識がないまま、日々の診療に追われ「医院経営はこんなものか」と、問題点はそのまま既成事実化していきます。すると開業当初のまちがいは内在し続け、数年後に表面化してきます。

1990年代ごろまでの開業当初のまちがいは、会計・財務と家族による経営干渉がほとんどでした。会計業務と組織づくり、どちらも公私混同していることから端を発する問題で、当時はよくある話でした。それに加えて、2000年以降は歯科医院の競合激化により、歯科医院の広告宣伝の材料(PR材)による経営問題が増えはじめました。

1990年以降、歯科医院が乱立して、臨床スタイルや治療技術ではPR材としての効果は弱くなってきました。その後、インターネットの営利目的利用についての制限がなくなり、2005年頃から、インテリア、費用、機材設備などが歯科医院のPR材として使われはじめました。これらをPR材にする手法は、先行して飲食や美容、小売などで行われていましたが、他業界のインテリアデザイナーやマーケッターが淘汰され、新たな仕事場として歯科業界に流入してきました。その時期とインターネットの商業化が重なり、種々雑多なPR材が歯科医院に広まっていったのです。

当然、他業種で効果がなくなった手法ですから、歯科医院でも長くは続きません。ましてや、こういったPR材は必然的に生まれたものではなく、「なにか目あたらしいものを」という商業的視点から発想されたために、生活者の意識に深く根づきません。さらに、高度成長期につくられた社会システムの不適応が表面化した2000年以降、人々はあせり、いらだち、不安を抱えて生活しています。「目あたらしさ」ばかりを打ちだせば、人々の感情を逆なですることにもなります。そんな中、コロナの感染拡大は一気に「目あたらしさ」から「本質的なこと」へと生活者の意識をシフトさせています。

特にこれから開業する歯科医師は、コロナ後の数年の世の中の空気を読まなければなりません。開業後、数年経っても経営が軌道に乗らない歯科医師ほど、歯科医院経営の本質的なことに着手できないまま、依然として「なにか効果的な宣伝はできませんか」と聞いてくる傾向があります。そんなときに思うのは「開業する前に、社会状況や世の中の空気をもう少し考えられなかったのかなぁ」ということです。この数年は「どうしたら、こんなにひどい勘ちがいをするのか」と、あきれることも多くなりました。そんな歯科医師の医院経営のまちがいは、PRの仕方にあるのではなく、世の中の情勢を読みちがえていることにあるのです。

近年の開業する歯科医師の傾向は、診療システムや治療技術を突きつめることにはあまり関心がなく、新機材などの「目あたらしさ」をPR材にすることに執着していることです。それだけ長期的展望を持てない業界になったのかもしれません。こういった傾向は一部の歯科医師だけではなく、歯科業界全体の体質のようにも思えます。それは歯科医院のウェブサイトを見れば明らかです。この数年間で、デンタルショーなどで歯科メーカーがPRする製品を、歯科医院は自院のウェブサイトに載せ、歯科メーカーに代わり生活者にPRするという図式が目だちます。集客のためにモノを誇示するわけです。1960年代高度成長期さながらの物質至上主義で、歯科業界が社会情勢とギャップがある証左で、懸念されることです。

インテリアが歯科医院の体制を変える

他業界のPR材の効果は大きく変化してきていて、例えば、もはやインテリアでは人は呼べないのが常識です。いまの大学生ぐらいまでの世代にとって、スマートフォンやパソコンという道具は小さなころから当たり前に存在していたために、新しいバージョンが出てもさほどインパクトはありません。若年層ほど目あたらしさには感覚が麻痺しているので、店舗インテリアに多額の資金を投入しても「あ~そんな感じね」とうい程度にしか感じていません。歯科業界でも、10年程前にはやったデザイナーズやテーマパークのような子ども向けインテリアはもはや陳腐にさえ感じられています。加えて、そういったインテリアほど感染対策が難しくなり、医療機関レベルの安全から遠い環境になることをコロナはあきらかにしています。

1980年代、飲食店はじめ小売店舗ではポストモダンなインテリアが全盛期でしたが、バブル崩壊から1900年代末まではありとあらゆるインテリアが台頭して生活者にとって目あたらしいものはなくなってしまいました。このblogを書くにあたり、当時の店舗建築専門雑誌の『商店建築』を見なおしてみると、飲食店や小売業は有名なインテリアデザイナーやアーティストと呼ばれている人を用いて、内装をPR材にしていたのがわかります。それだけ宣伝効果があったということです。しかし、2000年代になると有名デザイナーなどの手によるインテリアは時代遅れになり掲載が減りだします。

すると歯科医院などの医療系の内装が『商店建築』によく掲載されるようになってきます。当時、『商店建築』に紹介された歯科医院のいくつかに私は関与していたので、当時のインテリア業界の様子は仔細に覚えています。掲載された医院のその後も知っています。当時は「インテリアは10年持てばよい」といわれていましたが、まさにその通りでした。実際はそのPR効果は10年続かず、歯科医院が乱立する都市部ではせいぜいインテリアで患者を呼べるのは、2~3年というところです。典型的な例が先に挙げたテーマパークのようなキッズデンタルパークで、それにかける設備投資をPR費用として考えるのでしたら、投資利益率はきわめて悪いことを認識しておくべきです。

2000年からの20年間、歯科医院のインテリアはデザイナーズとアミューズメント化といった「目あたらしさ」に傾いてきました。これからの歯科医院のインテリアは、スタンダード・プリコーションに準じたものが基本となり、PR材とするにはそこをクリアしてからの話です。また景気低迷が常態化してくると、しっかりとした医療機関としての大黒柱を立てる必要があります。リラックスできる診療室やおしゃれな空間を否定しているわけではありません。スタンダード・プリコーションという大黒柱のない歯科医院は、情勢変化に弱く中長期的に生活者からの支持をえることはできない、ということを指摘したいのです。

これからの歯科インテリアを考えてみると、キーポイントは「扉」にあります。遮断できる箇所が多い医院ほど安全な環境を整えることができます。待合室と診療室の扉、消毒コーナーの扉、診療室を個室化する扉、機械室を分離する扉などです。2000年以降の歯科医院では扉の役割を過小評価してきました。デザイン性や効率性を考えると、どれだけ扉をなくせるかが歯科インテリアの課題となってきましたが、これからは遮断する機能を持つ扉を正当に評価することが求められてきます。

“他の室と明確に区画されていること。【例】待合室と診察室とは明確に区画すること。診察室が他の室への通路となるような構造でないこと。”
“待合室と診察室の区画は、患者のプライバシー保護等に配慮し、扉が望ましい。”
などの保健所の施設基準があるにも関わらず、都市部の歯科医院では、開放感やスペースを理由に扉はつけられない(施設検査後に外される)傾向がありますが、それはこれからの時代に逆行する行為になります。

日本の歯科医院(大学・病院・企業歯科を除く)の平均ユニット台数は約4.5で、この数をパーティションで仕きった診療所にするには、約30坪の広さが必要になります。この平均的平成年間の歯科医院を、飛沫感染や観血的処置を顧慮し、スタンダード・プリコーションに準じた診療所にゾーニングするには、まず「扉」で各室を遮断していきます。待合室と診療室の間、消毒コーナーに扉をつけると通路幅を約200mm広くする必要があります。パーティションタイプから個室タイプにすることで、1台のユニットの設置幅が約2,200mmから約3,000mmになり、800mm広くしなければなりません。扉に加えエアロゾル対策として、機械室内で排気をするバキュームと反対に吸気をするコンプレッサーを分けて設置すると、従来の機械室の約2倍のスペースが必要になります。さらに診療室の3密を避けてソーシャルディスタンスを守ると、3密の元凶スタッフルームでの人と人の距離を厚生労働省推奨通りに2mほど(最低でも1m)取ると、都市部ではスタッフルーム用に別のスペースを用意するようになります。こうなると3密、ソーシャルディスタンスを守りぬくということは現実的ではないので、スタッフルームを除いて考えてみます。

4.5台のユニットを必要とする歯科医院でしたら、パーティションタイプならば6~7台設置していた40坪のスペースが必要になり経費が増えます。あるいは面積を基準に考えると、30坪で3台のユニットで歯科医院経営をしていくことになり、収入が減ります。そうなると、歯科医院経営を根本から見なおすことになり、取りもなおさず臨床システムや治療技術と真剣に向きあわなければならなくなります。コロナ後に安全安心な歯科医院づくりに取りくむと、医院の診療体制と経済を見なおすことになります。すでに開業している歯科医院にとっては相当な覚悟が必要になりますが、スタンダード・プリコーションという大黒柱を歯科医院に建ててこそ、歯科医療の本質的は進化ではないでしょうか。