売れる職人型歯科医になるために

コンサルブログ | 2021年5月14日

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(以下「か強診」)の施設基準は、生活者が「かかりつけ歯科医院」を選ぶ際の技術的インジケーターの意味もあると聞きます。というのも生活者が歯科医院を選ぶときの項目として「わかりやすい説明」「院内が清潔」「スタッフの対応がていねい」など定性的なものが上位をしめており、「歯科医療の専門性や知識」「技術力の高さ」など、制度の建てつけの意図の一つである医療費削減に結びつく「知識・技術」に関する回答は下位に低迷していたからだそうです(参考「「かかりつけの歯科医」についての意識調査結果」日本歯科総合研究機構)。そこで歯科医院の「知識・技術」をおしはかるために制定されたのが「施設基準」ですが、これは一考を要します。それは「か強診」の施設基準は歯科医院に新たな広告材になるために、かえって生活者の「かかりつけ歯科医院」の選択眼をまどわすことになることが懸念されます。そして医療者に求められる基本要素の「知識・技術・経験」の中の「経験」をはかる制定がなく、むしろ経験がある歯科医師の施設では届出が困難な項目が並べられています。ことの良し悪し、制度のあらを探せばキリがありません。それにしても私が7年前にスタディーグループ塩田義塾に寄稿した『売れる職人型歯科医になるために』は「か強診」の施設基準を前に時代錯誤なコラムに感じ、改めて歯科業界の時代の進みははやいと感じます。

『売れる職人型歯科医になるために』

「あそこは、入れ歯が下手だからインプラントをやっている」と歯科医によく聞くことがあります。以前から、インプラントに限らず「あそこは、治療は下手だけど金儲けは上手い」といったような思いは、技術には自信は持っているけれど経営はもう一息の職人型歯科医に潜在的にあるようです。こんな思いの背景には、技術を収益として最大化する意識が歯科界に育っていないことにもあると思います。こんなことを言うと「うちの技術は凄いから放っておいても口コミで患者がくる」というステレオタイプの指摘が決まって返ってきます。本当でしょうか?年々技術力の低い歯科医がインプラントなどを主力に広告宣伝し、従来の入れ歯とは違う先端医療の担い手のような顔をしている様を、職人型歯科医ほど苦々しく思っているのではないでしょうか。そんな思いから解放され、技術力も経営力も伴った“売れる職人型歯科医”に変わるためには、「売れるものとは何なのか」を考え直してみる姿勢が必要です。

~偽ベートーベンに見る、売れる仕組み~

数ヶ月前に世間を騒がせた偽ベートーベンこと佐村河内氏の所業に着目してみると、ことの善悪とは別として「売れるもの」の仕組みが見えてきます。問題とされた佐村河内氏の手法は、芸能界ではタレントをプロデュースする時には従来から行われている手法そのものでした。この問題を単純化すると、佐村河内氏の偽善的振る舞いとゴーストライターを使ったプロデュースを、マスメディアが見誤り美化した結果、佐村河内氏は売れっ子になったが、全ては嘘でメディアは一杯食わされたという図式になります。

ゴーストライターの存在が発覚しても、佐村河内氏の曲が本質的に素晴らしかったのであれば、現代のベートーベンの称号はゴーストライターに移り、評価されたはずです。しかし、ゴーストライター自身も認めているように、あの程度の曲は現代音楽を勉強した人ならば、誰にでも作れる平凡なものとのこと。つまり佐村河内氏の曲が売れた理由は、彼自身の背景に感動ストーリーを作り上げた偽善的プロデュース力によるものが大きかったわけです。このことは、必ずしも世の中は「よいものが売れる」わけではないことを象徴的に示しているのではないでしょうか。

~プロデュース力って、何だ~

歯科界にも佐村河内氏的な歯科医はネット上にウジャウジャしています。10万円インプラントを売りにする歯科医などはその典型です。彼らは技術の低さをプロデュース力によって、職人型歯科医よりも顧客満足を得ている向きもあります。ここでのプロデュース力とは、提供するモノからビジネスの仕組みを作り上げる力です。提供するモノと消費者ニーズのバランスをとる力と言い換えることもできます。法則化すると「価値提供(提供される入れ歯の質)」×「患者(消費者)ニーズ」のバランス感覚がプロデュース力になります。

ここで職人型歯科医のハードルとなるのは、「患者(消費者)ニーズ」、つまり消費者が「よいもの」と感じるモノを捉える力の弱さです。一概に「よいもの」といっても歯科医を取り巻く環境によって様々に変化します。しかしマーケティング定理として欲しいことは、歯科医の考える「よい入れ歯」(=技術的に優れたモノ)と患者の考える「よい入れ歯」(=そこそこの費用でそこそこの性能を持つモノ)には、ミスマッチが存在していることです。このような消費者としての患者心理や感情を理解することが、“売れる職人型歯科医”への転換には必要とされます。

~売れる歯科医に、法則あり~

“職人型歯科医”と“プロデューサー型歯科医”の違いを法則に数字を入れてイメージしてみます。プロデュース力の構成要素の「価値提供」と「患者ニーズ」は、前述したので説明を省きますが、「力量」とは歯科医の信用(評判や評価)と資金力(良い設備と材料を使える)、そしてネットワーク(レベルの高い人材と技工所との連携)などの総合力を意味します。

【職人型歯科医】

入れ歯には自信があるが、プロデュース視点がないため儲からない。その結果、最近では高い技工料が負担になりつつある上に、コミュニケーション力の高いスタッフを雇用できないことから価値提供も下落傾向。

法則を数値化すると、
「価値提供8」×「患者ニーズ3」×「力量5」=120

【プロデューサー型歯科医】

入れ歯は苦手だけれど、患者ニーズの把握に優れ経営は順調なため、技工料は高いが技術力の高い技工所が苦手の入れ歯をカバーしてくれる。結果として、まあまあの入れ歯を提供できるようになってきて価値提供も上昇傾向。

法則数値化すると、
「価値提供7」×「患者ニーズ9」×「力量7」=441となり、総合力では技術力の劣るプロデューサー型歯科医の方が優位になります。上記法則に落とし込んだ数字はイメージに過ぎませんが、昨今の歯科界のトレンド、臨床バカ(失礼!)な歯科医ほど経営難になる傾向を表しています。

 本拙文が、ぜひ昨今の歯科のトレンドを変え、「よいものを作れる」塩田義塾の方々に、“売れる職人型歯科医”の範となっていただく契機になって欲しく思います。