求む、プロ歯科衛生士

歯科衛生士の採用・雇用・待遇に関して、ゆく先々の歯科医から相談を受ける。なるほど、歯科衛生士に関する求人情報量が年々増えるのも納得できる。高度成長期当時の山谷地区の手配師よろしく人材派遣・求人企業が跋扈して、歯科衛生士の求人を情報媒体に載せている。その結果、膨大な求人情報量が、売り手市場の歯科衛生士を日雇い労働力化して、医院経営を蝕むという悪循環が起きている。



歯科衛生士の求人情報量の増加は、歯科医院経営が保存予防型へと構造変化していった結果である。物事の現象は外部と内部のバランスから発生し、悪化現象は、著しく内部が外部の変化に振り回された時に起きる。つまり歯科医院は求人情報量に錯綜された結果、実態は日雇いの「勘違いプロ歯科衛生士」をつくり、翻弄さる羽目になったのだ。



私は、約240人の歯科衛生士から基本検査、SC、SRPを受けてきた経験がある。その経験から、テクニカルワーク・観察眼・数値管理・言動・意識からプロフェショナルを実感できるのは、一医院に定着期間の長い歯科衛生士の中の一握りであって、求職を繰り返す日雇い歯科衛生士ではないという、当たり前の結論に辿り着く。しかし、多くの歯科医院は日雇い歯科衛生士の雇用に汲々として、慢性的に医院経営を悪化させているのは悲劇としか言いようがない。このような悲劇は、歯科医がプロ以前にまともな歯科衛生士を見る目を持っていないことにつきる。さらに、求人情報に左右されて目に見える報酬の給与や待遇の競り合いで、歯科衛生士を確保しようとする歯科医の姿勢もどうしたものかと思う。



一流の職人がそうであるように、真のプロフェショナルな歯科衛生士も、「腕を磨く」ことそのものを喜びとして、「腕」を磨き続けた結果、「人間」も磨かれていくものと、確信を持って言える。まず、目に見える報酬にしか反応しない日雇い歯科衛生士を、真っ先に不採用としよう。その上で、目に見えない報酬、①働き甲斐②能力の開発③人としての成長④仕事を通じての出会い、これらのことを大切にする歯科医院経営をしていると大風呂敷を広げてみることだ。



「これでは、何時まで経っても歯科衛生士を採用できない」と言われる向きもあるが、日雇い衛生士を雇っている限り、何時まで経っても「ゼロサム経営」から脱出できない。まともな(プロフェショナルな)歯科衛生士を採用して、「プラスサム経営」を目指すならば、「何時まで経っても歯科衛生士を採用できない」リスクを執ることである。腹を括れば、人は集まり、ついてくる。