歯医者が変人で何故悪い

「歯科医は変人が多い」と、世間では良く言われる。そうかな?と思い、その問いを歯科医院のスタッフに向けると「変人というより変態ね」という声が返ってくる場合もある。「変人」と「変態」は全く別物で、片や行動原理に一方は性的嗜好に根差している。が、女性スタッフの多い歯科医院では、歯科医の言動を鵜の目鷹の目で観察されていることを自覚していないと、歯科医はいつの間にか変態に祭り上げられているのだから、たまったものではない。


さて、確かに歯科医には変人が多い、と思う。しかし、これは歯科医の業種的特徴ではなく、経営者という職務からくる歪みだと思う。「いい人では経営者は務まらない」と言われるが、歯科医以上に小規模零細の経営者は、相当な変人で、その上に悪相が加わっている人さえ少なくない。経営誌に登場しているイケメンIT系若社長やダンディーな中高年経営者など、例外的事例である。多くは、その職務の歪みから言動は変人と化し、時に外見には悪相が吹き出ている。

 
歯科医院の立ち上げから歯科医に付き合っていると、歯科医の変わっていく様をまざまざと見ることになる。資金調達の段階では、歯科医は「先生」からいきなり「債務者」へ格下げされ、世間の厳しさを慇懃無礼にも突きつけられ、胃がキリリッと痛む。どうにかこうにか開業までこぎつけると、医療機材の受注を目指して足繁く通ってきた業者は、納品と同時にフェードアウト、歯科医の周りから相談相手がどんどん消えていき、人間不信になる。開業して1年余りは、アレが足りないコレがない状態で医院経営を強いられ、綱渡りのような毎日だ。そうこうしていると資金繰りの苦しさを知らないスタッフからは、「忙しいのに待遇が悪い」などという囁きが耳に入ってきて、こめかみの当たりでプッチと切れる音が聞こえてくる。これでは、変人にならない訳がない。歯科医は端から変人だった訳ではなく、経営者になる過程で変人になっていくのだ。

 
気にすることはない。給料をもらって働いているスタッフ、借金を返済してもらって利ざやを稼ぐ金融機関、材料や技工を商いとしている業者と、患者を集めて金を稼がなくてはどうにもならない歯科医とは、仕事に対するマインドが根本的に違うのだから。絶え間なく続く悩みと苦しみの結果が「変人」でもいいではないか、「経営者は変人で、孤独だ」と、誰もいない診療室で叫んでやろう。

 
こんな歯科医が本質的に抱える恐怖心を緩和してくれるのが、歯科医院に多い同族経営である。しかし、同族経営は恐怖心を緩和してくれるが、変人扱いからの脱出は望めない。歯科医院経営とは、歯科医とスタッフ、出入り業者、金融機関との間にある大いなる隔たりを乗り越えなければ、売上も利益も出ない仕組みになっている。
歯科医院経営は変人扱い、同族経営を過ぎたのちに永続的に繁栄が待っている。