2011年4月アーカイブ
個人でもチェーン展開する法人でも、インプラントを語るとき、患者QOLの向上と医療提供側との相互利益の合理性が切り口にされる。なるほど、QOLはコピーとしてはいささかインパクト不足だが、一見、生活者が納得するだけの整合性はある。一見と言ったのは、インプラントの引き合いに使われる入れ歯に比べて、インプラントはQOLの面では優れていると言われているが、そうは思えないからだ。
インプラントのコピーに使い古された「笑う、食べる、話す」ことに、QOLは集約されない。QOLは「生活」「人生」「生命」すべてを包括した質であって、「笑う、食べる、話す」は、主に「生活」の質を意味する。この一部を切り取って「QOLの向上」と繰り返しても、ますます10万円インプラトに市場を席巻されるだけだ。高齢者のQOLは、「健康」と「自立」が最も重要とされている。セルフケア可能な入れ歯は、インプラントに比べてこの点では明らかに優位で、一概にインプラントがQOLの面で優れているとは思えない。
しかし、インプラントの弱みこそが「伸び代」と考えることがマーケティング思考だ。首都圏では、05年から20年までに75歳以上人口が154万人増え高齢化が加速し、その10%が収容型施設に入るとされる。この人口増加層が、即ち現在のインプラント対象者層だ。入れ歯と違いセルフケアが不可能なインプラント治療は、通院が困難になる高齢者のための、メインテナンスネットワークづくりなくして、QOLを突破口に需要は拡大しないだろう。
インプラントのマーケティングは、オペレーションやプライスのフェーズからメインテナンスのインフラづくりに入った。
この「高ぶる気持ち」を、多くの歯科医にも体験してもらいたい。サラリーマンでは感じることができない、雇われないで生きる緊張感。しかし、最近は開業する歯科医のモラル・ハザードが大きくなった。ひとつは歯科医院の事業性など考慮されることはなく、担保に対しての貸し付けでしかない金融機関の姿勢。そして歯科医自身が内包している独立に対するリスクヘッジだ。リスクヘッジはとても大切だが、オーナーシップに欠かせない野性の欠如にも通じる。
いつまでも開業予備軍でいることは、歯科医として楽な生き方だ。なんの責任もないし、臨床や経営へのリテラシーが増えることで、歯科医として成長している気分になれる。しかし、どこかの時点で今までの学びを生かすステージにいかなければならないのが、多くの歯科医の宿命だ。
経済情勢、歯科医師過剰、人口減少、リスクは山ほどある。多くの開業予備軍の歯科医が、状況が悪いことを理由にスタートを切れないでいる。しかし、その本質は、外部状況にはない、歯科医自身が持つ独立に対する「恐れ」に他ならない。
100%でなくても構わない。生まれてこの方、どの局面においても完璧な状況などあったであろうか。恐れで自分を止めることで、完璧な状況が揃うことはない。永遠の開業予備軍にならないために、まず第一歩を踏み出してみることだ。
きっと、「やっと春が来ました」と言える時が来る。
昨年から毎月一軒のペースで、歯科医院をプロデユースしている。開業は低調と、メーカー各社の声が入ってくるが、弊社の顧問先に関してはとても元気な医院が多い。新規開業の歯科医だけではなく、分院展開の依頼も多い。あるデータによると、売り上げ8000万以上の上位医院の業績は前年比約8%増、中位•下位医院は停滞か下降とされるが、なるほど頷ける。新規開業のマーケティングからも、既存医院のコンサルティングからも、歯科医院経営とは、参入障壁を作り上げていくことに他ならないと、実感する毎日である。
新規医院はいかにして既存医院の参入障壁を超えられるか、既存医院は新規医院に超えることのできない医院を作り上げるかが経営である。定量調査が意味をなくしつつある現在、追う立場の新規医院は、立地優位性と価格戦略に胡座をかいている既存医院が多いエリアでの開業が成功へのファーストステップだ。反対に追われる立場の既存医院は、立地と価格は中長期的な参入障壁にはならないことを認識して欲しい。新規、既存の別に関係なく参入障壁を超える手段は「人材」と「お金」である。もちろん「技術」であったり「サービス」であったり、様々な要素で医院経営に違いはでてくる。しかし、技術を高めようにもサービス水準をあげようにも、すべて「お金」と「人材」がついてまわる。
立地を担保している多くの医院には「人材」と「技術」がない、技術を担保としている医院には「お金」と「サービス」がない。歯科医院経営は、まだまだ隙間だらけである。
昨日も勤務医のことで相談を受けた。「いいDRいないですか」は、どこの医院でも挨拶代わりになっている。歯科衛生士がいなくなったと思っていたら、勤務医までもいなくなってしまったのが首都圏の歯科事情だ。推測するに、若手歯科医は研修先で青田買いされていること、首都圏での過当競争を避け、出身地近辺で開業準備に勤務するケースが増えたことが挙げられる。しかし、だ。こんな正論を言っていても、働き手を求めている歯科医院には何の解決方法にもならない。
歯科雑誌や求人誌に「歯科衛生士が選ぶ就職先の条件」なる記事がある。給与・福利厚生・休日と労働時間・勤務立地が良いことが上位にきている。そんな当たり前のアンケート結果に、「そんな好待遇ができれば、困りはしない」と一くさり言いたくもなる。しかし、歯科雑誌や求人誌の編集は意外と現場を知らないため、アンケートには表れない現象を見る力も洞察する力もないのだから仕方がない。幸い仕事柄私は多くの医院の求人に立ち会ってきて、歯科衛生士にも若手歯科医にも「影の求職傾向」があることを知っている。
若手歯科医も求職先を探す条件は歯科衛生士と大差はない。中には、技術研鑚のため丁稚奉公を大御所の医院で志願する者もいるが、これは例外的な存在だ。若手歯科医の求職先として人気がある医院は、女性スタッフがポイントとなってくる。女性スタッフには歯科衛生士とか歯科助手の別は特には関係はないが、できれば若く、それに美形が加わると就職率だけでなく定着率も良いようなイメージがある。と、言うのも若手歯科医師は、求人先ホームページで院長のコンセプトや技術的ウンチク、実績などロジカルな判断もしているが、それに加え色香に誘われて応募してくる傾向があるからだ。以前まったく勤務医の応募が来なかった医院のホームページと求人サイトの医院紹介ページに、美形若手スタッフを集め写真を実験的に並べたところ、以前と同じ求人条件でDRが殺到した例がある。このような事例は珍しいことではない。「鮎の友釣り」のようと嘆くことなかれ、色香を否定して慢性的人手不足に甘んずる理由はどこにもないのだから。
歯科衛生士の採用は、勤務医以上にイメージに左右されやすい。歯科衛生士としての働き甲斐を求めるのは当然のこととして、「おしゃれさ」「明るさ」「楽しさ」など自分自身のライフスタイルのイメージで歯科医院を選ぶ傾向があるからだ。歯科衛生士としての働き甲斐がわかっていても、感情的に好きになれない歯科医院には梃子でも就職しない。さらに院長が知っておかなければならなことは、歯科衛生士が就職先を選ぶ基準に「院長のイメージ」が大きなウエイトを占めていることだ。つまり、院長のイメージが悪いとその医院は、歯科衛生士に敬遠される傾向がある。院長の悪いイメージのNO1.は「不潔」で、続いて「自慢話」「ケチ」などを挙げる歯科衛生士が多い。まあ、これは歯科衛生士でなくとも同じ気がするが。
女性スタッフが集まらない医院には、優秀な勤務医も来てくれない。つまり女性スタッフに嫌われる院長の未来は暗い、と言える。歯科医院の求人は一にも二にも「院長のイメージ」にかかっている。
歯科衛生士の求人情報量の増加は、歯科医院経営が保存予防型へと構造変化していった結果である。物事の現象は外部と内部のバランスから発生し、悪化現象は、著しく内部が外部の変化に振り回された時に起きる。つまり歯科医院は求人情報量に錯綜された結果、実態は日雇いの「勘違いプロ歯科衛生士」をつくり、翻弄さる羽目になったのだ。
私は、約240人の歯科衛生士から基本検査、SC、SRPを受けてきた経験がある。その経験から、テクニカルワーク・観察眼・数値管理・言動・意識からプロフェショナルを実感できるのは、一医院に定着期間の長い歯科衛生士の中の一握りであって、求職を繰り返す日雇い歯科衛生士ではないという、当たり前の結論に辿り着く。しかし、多くの歯科医院は日雇い歯科衛生士の雇用に汲々として、慢性的に医院経営を悪化させているのは悲劇としか言いようがない。このような悲劇は、歯科医がプロ以前にまともな歯科衛生士を見る目を持っていないことにつきる。さらに、求人情報に左右されて目に見える報酬の給与や待遇の競り合いで、歯科衛生士を確保しようとする歯科医の姿勢もどうしたものかと思う。
一流の職人がそうであるように、真のプロフェショナルな歯科衛生士も、「腕を磨く」ことそのものを喜びとして、「腕」を磨き続けた結果、「人間」も磨かれていくものと、確信を持って言える。まず、目に見える報酬にしか反応しない日雇い歯科衛生士を、真っ先に不採用としよう。その上で、目に見えない報酬、①働き甲斐②能力の開発③人としての成長④仕事を通じての出会い、これらのことを大切にする歯科医院経営をしていると大風呂敷を広げてみることだ。
「これでは、何時まで経っても歯科衛生士を採用できない」と言われる向きもあるが、日雇い衛生士を雇っている限り、何時まで経っても「ゼロサム経営」から脱出できない。まともな(プロフェショナルな)歯科衛生士を採用して、「プラスサム経営」を目指すならば、「何時まで経っても歯科衛生士を採用できない」リスクを執ることである。腹を括れば、人は集まり、ついてくる。
さて、確かに歯科医には変人が多い、と思う。しかし、これは歯科医の業種的特徴ではなく、経営者という職務からくる歪みだと思う。「いい人では経営者は務まらない」と言われるが、歯科医以上に小規模零細の経営者は、相当な変人で、その上に悪相が加わっている人さえ少なくない。経営誌に登場しているイケメンIT系若社長やダンディーな中高年経営者など、例外的事例である。多くは、その職務の歪みから言動は変人と化し、時に外見には悪相が吹き出ている。
歯科医院の立ち上げから歯科医に付き合っていると、歯科医の変わっていく様をまざまざと見ることになる。資金調達の段階では、歯科医は「先生」からいきなり「債務者」へ格下げされ、世間の厳しさを慇懃無礼にも突きつけられ、胃がキリリッと痛む。どうにかこうにか開業までこぎつけると、医療機材の受注を目指して足繁く通ってきた業者は、納品と同時にフェードアウト、歯科医の周りから相談相手がどんどん消えていき、人間不信になる。開業して1年余りは、アレが足りないコレがない状態で医院経営を強いられ、綱渡りのような毎日だ。そうこうしていると資金繰りの苦しさを知らないスタッフからは、「忙しいのに待遇が悪い」などという囁きが耳に入ってきて、こめかみの当たりでプッチと切れる音が聞こえてくる。これでは、変人にならない訳がない。歯科医は端から変人だった訳ではなく、経営者になる過程で変人になっていくのだ。
気にすることはない。給料をもらって働いているスタッフ、借金を返済してもらって利ざやを稼ぐ金融機関、材料や技工を商いとしている業者と、患者を集めて金を稼がなくてはどうにもならない歯科医とは、仕事に対するマインドが根本的に違うのだから。絶え間なく続く悩みと苦しみの結果が「変人」でもいいではないか、「経営者は変人で、孤独だ」と、誰もいない診療室で叫んでやろう。
こんな歯科医が本質的に抱える恐怖心を緩和してくれるのが、歯科医院に多い同族経営である。しかし、同族経営は恐怖心を緩和してくれるが、変人扱いからの脱出は望めない。歯科医院経営とは、歯科医とスタッフ、出入り業者、金融機関との間にある大いなる隔たりを乗り越えなければ、売上も利益も出ない仕組みになっている。
歯科医院経営は変人扱い、同族経営を過ぎたのちに永続的に繁栄が待っている。
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