2011年4月アーカイブ

連休だ。連休前日は茨城県真壁の歯科医院へ訪問し、帰宅は深夜0時を回っていた。しかし、休日は何故かいつもより早く目が覚める。一昨日、帰りの常磐高速では、連休明けにオープンする新規医院の展望を考えていた。その医院は診療日時で利便性を図るが、自費の薄利多売はしない展開を仕掛けていく。そんなことを考えていると、開業地の診療圏を再度確認したくなり、練馬区のT駅周辺に6時34分に着く。

早速診療圏を観察して歩く。ゴミ捨て場、自動販売機、コンビニのバンズ、自転車置き場、公園のゴミ箱、洗濯物、コインパーキングなどを観察していると、その診療圏の住人、労働者の生活が頭の中でリアルに再現されてくる。早朝の街を徘徊する姿は犯罪者のようだが、現地観察をしないで医院のコンサルティングができないのは、20年来の習いとなってしまった。

首都圏では定量調査から開業地を選定し、その後の展望を考えることは難しい。だからと言って、定量調査は無駄なことではない。その地での経営展開の仮説を立てるには、必要不可欠だ。ここから先の、虫瞰(ちゅうかん)的調査で差がでる。どんな診療指針を打ち立てていけば受け入れられるのか?どんなインテリア、ファザード、サインが響くのだろうか?PRの展開は?等々、診療圏の薄皮を一枚一枚はがすように見えてくるものがある。もちろん、連休明けにオープンする医院の展開は、すでに織込み済みだ。しかし、想定が下方にブレた時のことも考えなければならないため、何度でも開業地を観察したくなる。ネット社会で非効率的な事この上ないが、机上(ネット)の推論では、単なる「閃き」でありバクチでしかない。

診療圏を歩きながら、車を流しながら、「5W1H」を繰り返す。いろいろな展開がイメージできる。WHO.WHEN.WHERE.WHAT.WHY.HOWは、ビジネスを創り上げていく上で基本の「き」の字だ。これを繰り返すことで、経営のカンが冴えてくる、「直感」だ。「直感」も「閃き」も同じようなものだが、「直感」は振り返ってみて論理的に説明ができるが「閃き」は感覚的なもので説明ができない。つまり経営が下方にブレた時、修正が可能なのが「直感」、難しいのが「閃き」となる。だから診療圏を歩き、「直感」を研ぎすます。

変化が激しく即断を求められる経営環境にいる歯科医師は、様々な情報に右往左往することなく、「直感」を磨くことが求められている。








以前は、スタッフに受講させるセミナー効果に対しての質問を良く受けた。そんな時は決まって「スタッフのWILL次第」と答えた。最近は、セミナー受講に対しての休日出勤とセミナー費用負担についての相談が多い。休日出勤と費用負担は相関関係にある。セミナー受講を全額医院負担にするのであれば、受講日を休日出勤扱いにして医院研修とした方がスッキリとする。その方がスタッフも「WILL BEING」になり、効果も期待できる。

話をややっこしくしているのが、受講料の半額負担という扱いだ。
「こんなでは使えない、勉強してこいよ」というスキルアップを他人任せにする甘い気持ちと、「半額ぐらいなら負担してもいいか」という仏心が、仇になる。こんなケースに限って、院長の期待とスタッフの気持ちは相反する結果になる。

スタッフに期待する前に、院長自身がセミナー受講に対してコストと目的を明確にしなければ、スタッフには響かない。セミナー受講コストを、(例えば)受講料1万円+休日出勤手当て1万5千円+稼ぐべき付加価値4万5千円=7万円/1日と認識している院長は意外に少ない。スタッフ1人に1日7万円投資するという意識があれば、医院にとって有益なセミナーか否かの判断基準が厳しくなる。そしておのずと受講するセミナー目的も明確になってくるものだ。

ところが1万円の半額の5千円を負担して、スタッフ自身のスキルアップだから休日出勤扱いはナシでいこう、などとスキルアップと経費軽減の一挙両得を狙うものだから、スタッフのモチベーションも上がらないし、医院に対しての帰属意識も薄れて行く。結果、かえって医院経営にとってマイナスになる。どんなセミナーでも、スタッフの意欲をあげて受講させなければ、モノにならない。

そもそもスタッフにセミナーを受講させるということは、そのスタッフを少しでも早く戦力化して、黒字スタッフにすることを意味する。その結果として、医院の質が上がったり、医院目標が達成できるのだ。はじめから崇高な受講目的を掲げないほうが無難だ。また、スタッフ個人のスキルアップに医院がお金を出した上で休日出勤扱いにすることが、少しでももったいないと思うのであれば、端からセミナーのことなど考えずに、どうすれば残業代を減らすことができるのか考えていた方が、医院経営にプラスになる。

セミナー受講を医院経営に結びつけるハードルは高い。しかしそのハードルをクリアするのは、スタッフのスキルアップに対する院長のケレン味のない投資、お布施である。


新年度になって1ヶ月、スタッフ賃金の相談が多い。この1〜2年で、DHの賃金バブルは収束してきたが、それでも以前に高値で採用したDHの賃金が、低成長時代の歯科医院経営の重荷になってきている。

賃金に対して、院長とスタッフの見解は全く違うのが常だ。業種を問わず、払う方は高いと感じ、もらう方は安いと感じるのが、賃金の特性というものだ。特に歯科のようなサービス業は、間接部門を占めるスタッフが多いため、賃金の適正が見えづらい。そのため、スタッフは「安い給与で使われている」という意識が強くなる。このことは、医院の全ての数字を把握している院長とそうではないスタッフでは、見えているものが違うのだから仕方がない。

しかし、このような状態を放置しておいては、医院はいつまで経ってもギスギスして、居心地の良い職場など望むべきもなく、顧客満足など夢の彼方だ。院長は、医院の業績を損益計算書から判断することができるが、スタッフは自分の給与明細とぼんやりとした数字やイメージからしか、自分の給与の適正を判断できない。その上、人は自分の評価はかなり甘くなりがちである。そんなこんなで、医院に対する不信感が募り募って、「院長はベンツを乗り回していながら、ケチだ」なんていう歯科医に対する定冠詞を頂戴することになる。院長は、医院の数字をスタッフに知らしめ、そして自分の給与の適を判断できるように、スタッフ自身の損益計算書を作成させてみることが、必要だ。

①スタッフの売上げ(DH、DAの売上げは医院売上げの貢献度から自己評価)
②売上げ原価(材料や技工代など)
③付加価値(①−②)
④給料手当
⑤法定福利厚生費
⑥その他の経費(スタッフ数で割る)
⑦経常利益 ③ー(④+⑤+⑥)
⑧労働分配率 ⑦×40%

①〜⑦でスタッフ個々の損益計算をし、⑧で労働分配率を出し、自分の賃金が医院経営に対して黒字か赤字か認識させることから、スタッフに経営参加意識が芽生え、自らの仕事をプロ化していくのだ。

院長のウデがいくら良くても、はやりの真っ白な内装にしてみても、スタッフの賃金に対するわだかまりをなくし、経営意識に目覚めたスタッフを増やしていかない限り、医院は成長しない。歯科医院は正社員率10%のユニクロ的経営ではなく、80%のZARAを目指すべきである。

震災後、鉄道の復旧がまだ追いつかず東北地方のクライアント医院に伺うことが出来ない状況が続いている。東京にいる私は、新幹線が復旧しないことには、お手上げ状態だ。しかし、私が制約されるのは、せいぜい月1〜2回、当地の在来線の多くは復旧の目処がたたないことを思えば、不便を口にするのは全て東京中心に物事を考える奢りであろう。

東北地方のクライアントの訪問が延期され、少し時間にゆとりができたので、歯科雑誌をパラパラと流し読みをしてみる。不勉強な習いの私は、滅多に歯科雑誌を読まない。歯科業界に入った当時、総山孝雄先生の「歯学概論」と飯塚哲夫先生の「歯科医療とはなにか」を繰り返し読んだ。しかし、月刊の歯科雑誌は各論で構成されているため仕方がないが、編集コンセプトが希薄なため、退屈だ。雑誌巻末のセミナー広告を見ていた方が、歯科界のトレンドがわかって、まだましだ。

セミナー広告は、矯正とインプラント、そして世相を反映して経営セミナーが目につく。クライアントからも、スタッフ教育について「どのセミナーを受講すればいい」という質問を良くいただく。不勉強なため返事に窮すること度々。ひんしゅくを買うが、内心は「なんでもいい」と思っている。セミナーが実際に役にたつことなど、ごく稀なこと。セミナーは受講者のレベルや心構えで、その効果は大きく変わってしまうからだ。さらにセミナーによるインプット型のレベルアップは、受講者のモチベーションアップ以上にも以下にもならないと思ってさえいる。

以前、訪問先の医院で、モノになるのは厳しいな、と思っていたDHがいた。当時の彼女は、渋谷のセンター街で彷徨う女の子たちと外見は違わず、会話も幼稚で患者に信頼を得るような期待はできそうもなかった。しかし、度胸と積極性だけは、並々ならないモノがあり、私の関連するセミナーにも良く顔を出していた。そのうちセミナーの手伝いをしてもらい、多少の発言をしてもらうと、そのコメントがタイムリーなのだ。そんなことを繰り返しているうちに、彼女はDH対象のセミナーを主催するまでに成長した。彼女を成長させた原動力はセミナーでのインプットではなく、セミナーでのアウトプットだったのだと思う。

セミナーでインプット過剰になり消化不良を起させるよりも、アウトプットさせる場や媒体を与えることでスタッフは成長する。


昨日は2軒のクライアント医院で、イプラントの話になった。その後、ある財団からは、中国の富裕層を受け入れるインプラント施設への専門医のアサインとプロデュースを依頼された。夜は夜で、ポルトガルのマロークリニックが銀座4丁目にオープンするとの話も耳に入ってきた。マスメディアからはインプラントへの風当たりは強いが、歯科業界ではどこ吹く風である。

 
個人でもチェーン展開する法人でも、インプラントを語るとき、患者QOLの向上と医療提供側との相互利益の合理性が切り口にされる。なるほど、QOLはコピーとしてはいささかインパクト不足だが、一見、生活者が納得するだけの整合性はある。一見と言ったのは、インプラントの引き合いに使われる入れ歯に比べて、インプラントはQOLの面では優れていると言われているが、そうは思えないからだ。


インプラントのコピーに使い古された「笑う、食べる、話す」ことに、QOLは集約されない。QOLは「生活」「人生」「生命」すべてを包括した質であって、「笑う、食べる、話す」は、主に「生活」の質を意味する。この一部を切り取って「QOLの向上」と繰り返しても、ますます10万円インプラトに市場を席巻されるだけだ。高齢者のQOLは、「健康」と「自立」が最も重要とされている。セルフケア可能な入れ歯は、インプラントに比べてこの点では明らかに優位で、一概にインプラントがQOLの面で優れているとは思えない。
 

しかし、インプラントの弱みこそが「伸び代」と考えることがマーケティング思考だ。首都圏では、05年から20年までに75歳以上人口が154万人増え高齢化が加速し、その10%が収容型施設に入るとされる。この人口増加層が、即ち現在のインプラント対象者層だ。入れ歯と違いセルフケアが不可能なインプラント治療は、通院が困難になる高齢者のための、メインテナンスネットワークづくりなくして、QOLを突破口に需要は拡大しないだろう。
 

インプラントのマーケティングは、オペレーションやプライスのフェーズからメインテナンスのインフラづくりに入った。
「新潟は桜も咲き始め、やっと春が来ました」と、昨日コンサル先の歯科医からメールをいただく。前後して『道玄坂・ユニクロメガストア』など商業施設のリーシングをしているO氏から電話が入り、メール元の新潟の歯科医のお父様と同窓であることがわかって、発破をかけられる。今、新潟へ向かう車中、十日町のあたりか、残雪に西日が反射して車窓からの景色がやけに眩しい。これから打ち合わせだが、昨日の偶然にいつになく気持ちが高ぶる。

この「高ぶる気持ち」を、多くの歯科医にも体験してもらいたい。サラリーマンでは感じることができない、雇われないで生きる緊張感。しかし、最近は開業する歯科医のモラル・ハザードが大きくなった。ひとつは歯科医院の事業性など考慮されることはなく、担保に対しての貸し付けでしかない金融機関の姿勢。そして歯科医自身が内包している独立に対するリスクヘッジだ。リスクヘッジはとても大切だが、オーナーシップに欠かせない野性の欠如にも通じる。

いつまでも開業予備軍でいることは、歯科医として楽な生き方だ。なんの責任もないし、臨床や経営へのリテラシーが増えることで、歯科医として成長している気分になれる。しかし、どこかの時点で今までの学びを生かすステージにいかなければならないのが、多くの歯科医の宿命だ。

経済情勢、歯科医師過剰、人口減少、リスクは山ほどある。多くの開業予備軍の歯科医が、状況が悪いことを理由にスタートを切れないでいる。しかし、その本質は、外部状況にはない、歯科医自身が持つ独立に対する「恐れ」に他ならない。

100%でなくても構わない。生まれてこの方、どの局面においても完璧な状況などあったであろうか。恐れで自分を止めることで、完璧な状況が揃うことはない。永遠の開業予備軍にならないために、まず第一歩を踏み出してみることだ。

きっと、「やっと春が来ました」と言える時が来る。

東海道新幹線14・15番コンコース下のカフェテリアが以前からのお気に入りだ。なんということないカフェテリアだが、震災の影響で薄暗くなった趣が、欧州の駅のような感じを醸し出し、以前に増して落ち着く。今日は、大阪へのコンサルティングだ。大阪の歯科医院の停滞は、首都圏を先行すること10年あまり、大阪経済の低調に因を発しているためか、特効薬はなかなか見つからない。 今後、首都圏歯科医院もスタッフのキャスト化やイメージ戦略では、経ち行かなくなることは、大阪を見ていると容易に察しがつく。

昨年から毎月一軒のペースで、歯科医院をプロデユースしている。開業は低調と、メーカー各社の声が入ってくるが、弊社の顧問先に関してはとても元気な医院が多い。新規開業の歯科医だけではなく、分院展開の依頼も多い。あるデータによると、売り上げ8000万以上の上位医院の業績は前年比約8%増、中位•下位医院は停滞か下降とされるが、なるほど頷ける。新規開業のマーケティングからも、既存医院のコンサルティングからも、歯科医院経営とは、参入障壁を作り上げていくことに他ならないと、実感する毎日である。

新規医院はいかにして既存医院の参入障壁を超えられるか、既存医院は新規医院に超えることのできない医院を作り上げるかが経営である。定量調査が意味をなくしつつある現在、追う立場の新規医院は、立地優位性と価格戦略に胡座をかいている既存医院が多いエリアでの開業が成功へのファーストステップだ。反対に追われる立場の既存医院は、立地と価格は中長期的な参入障壁にはならないことを認識して欲しい。新規、既存の別に関係なく参入障壁を超える手段は「人材」と「お金」である。もちろん「技術」であったり「サービス」であったり、様々な要素で医院経営に違いはでてくる。しかし、技術を高めようにもサービス水準をあげようにも、すべて「お金」と「人材」がついてまわる。

立地を担保している多くの医院には「人材」と「技術」がない、技術を担保としている医院には「お金」と「サービス」がない。歯科医院経営は、まだまだ隙間だらけである。

昨日も勤務医のことで相談を受けた。「いいDRいないですか」は、どこの医院でも挨拶代わりになっている。歯科衛生士がいなくなったと思っていたら、勤務医までもいなくなってしまったのが首都圏の歯科事情だ。推測するに、若手歯科医は研修先で青田買いされていること、首都圏での過当競争を避け、出身地近辺で開業準備に勤務するケースが増えたことが挙げられる。しかし、だ。こんな正論を言っていても、働き手を求めている歯科医院には何の解決方法にもならない。

 

歯科雑誌や求人誌に「歯科衛生士が選ぶ就職先の条件」なる記事がある。給与・福利厚生・休日と労働時間・勤務立地が良いことが上位にきている。そんな当たり前のアンケート結果に、「そんな好待遇ができれば、困りはしない」と一くさり言いたくもなる。しかし、歯科雑誌や求人誌の編集は意外と現場を知らないため、アンケートには表れない現象を見る力も洞察する力もないのだから仕方がない。幸い仕事柄私は多くの医院の求人に立ち会ってきて、歯科衛生士にも若手歯科医にも「影の求職傾向」があることを知っている。

 

若手歯科医も求職先を探す条件は歯科衛生士と大差はない。中には、技術研鑚のため丁稚奉公を大御所の医院で志願する者もいるが、これは例外的な存在だ。若手歯科医の求職先として人気がある医院は、女性スタッフがポイントとなってくる。女性スタッフには歯科衛生士とか歯科助手の別は特には関係はないが、できれば若く、それに美形が加わると就職率だけでなく定着率も良いようなイメージがある。と、言うのも若手歯科医師は、求人先ホームページで院長のコンセプトや技術的ウンチク、実績などロジカルな判断もしているが、それに加え色香に誘われて応募してくる傾向があるからだ。以前まったく勤務医の応募が来なかった医院のホームページと求人サイトの医院紹介ページに、美形若手スタッフを集め写真を実験的に並べたところ、以前と同じ求人条件でDRが殺到した例がある。このような事例は珍しいことではない。「鮎の友釣り」のようと嘆くことなかれ、色香を否定して慢性的人手不足に甘んずる理由はどこにもないのだから。

 

歯科衛生士の採用は、勤務医以上にイメージに左右されやすい。歯科衛生士としての働き甲斐を求めるのは当然のこととして、「おしゃれさ」「明るさ」「楽しさ」など自分自身のライフスタイルのイメージで歯科医院を選ぶ傾向があるからだ。歯科衛生士としての働き甲斐がわかっていても、感情的に好きになれない歯科医院には梃子でも就職しない。さらに院長が知っておかなければならなことは、歯科衛生士が就職先を選ぶ基準に「院長のイメージ」が大きなウエイトを占めていることだ。つまり、院長のイメージが悪いとその医院は、歯科衛生士に敬遠される傾向がある。院長の悪いイメージのNO1.は「不潔」で、続いて「自慢話」「ケチ」などを挙げる歯科衛生士が多い。まあ、これは歯科衛生士でなくとも同じ気がするが。

女性スタッフが集まらない医院には、優秀な勤務医も来てくれない。つまり女性スタッフに嫌われる院長の未来は暗い、と言える。歯科医院の求人は一にも二にも「院長のイメージ」にかかっている。

 

 

 

歯科衛生士の採用・雇用・待遇に関して、ゆく先々の歯科医から相談を受ける。なるほど、歯科衛生士に関する求人情報量が年々増えるのも納得できる。高度成長期当時の山谷地区の手配師よろしく人材派遣・求人企業が跋扈して、歯科衛生士の求人を情報媒体に載せている。その結果、膨大な求人情報量が、売り手市場の歯科衛生士を日雇い労働力化して、医院経営を蝕むという悪循環が起きている。



歯科衛生士の求人情報量の増加は、歯科医院経営が保存予防型へと構造変化していった結果である。物事の現象は外部と内部のバランスから発生し、悪化現象は、著しく内部が外部の変化に振り回された時に起きる。つまり歯科医院は求人情報量に錯綜された結果、実態は日雇いの「勘違いプロ歯科衛生士」をつくり、翻弄さる羽目になったのだ。



私は、約240人の歯科衛生士から基本検査、SC、SRPを受けてきた経験がある。その経験から、テクニカルワーク・観察眼・数値管理・言動・意識からプロフェショナルを実感できるのは、一医院に定着期間の長い歯科衛生士の中の一握りであって、求職を繰り返す日雇い歯科衛生士ではないという、当たり前の結論に辿り着く。しかし、多くの歯科医院は日雇い歯科衛生士の雇用に汲々として、慢性的に医院経営を悪化させているのは悲劇としか言いようがない。このような悲劇は、歯科医がプロ以前にまともな歯科衛生士を見る目を持っていないことにつきる。さらに、求人情報に左右されて目に見える報酬の給与や待遇の競り合いで、歯科衛生士を確保しようとする歯科医の姿勢もどうしたものかと思う。



一流の職人がそうであるように、真のプロフェショナルな歯科衛生士も、「腕を磨く」ことそのものを喜びとして、「腕」を磨き続けた結果、「人間」も磨かれていくものと、確信を持って言える。まず、目に見える報酬にしか反応しない日雇い歯科衛生士を、真っ先に不採用としよう。その上で、目に見えない報酬、①働き甲斐②能力の開発③人としての成長④仕事を通じての出会い、これらのことを大切にする歯科医院経営をしていると大風呂敷を広げてみることだ。



「これでは、何時まで経っても歯科衛生士を採用できない」と言われる向きもあるが、日雇い衛生士を雇っている限り、何時まで経っても「ゼロサム経営」から脱出できない。まともな(プロフェショナルな)歯科衛生士を採用して、「プラスサム経営」を目指すならば、「何時まで経っても歯科衛生士を採用できない」リスクを執ることである。腹を括れば、人は集まり、ついてくる。
「歯科医は変人が多い」と、世間では良く言われる。そうかな?と思い、その問いを歯科医院のスタッフに向けると「変人というより変態ね」という声が返ってくる場合もある。「変人」と「変態」は全く別物で、片や行動原理に一方は性的嗜好に根差している。が、女性スタッフの多い歯科医院では、歯科医の言動を鵜の目鷹の目で観察されていることを自覚していないと、歯科医はいつの間にか変態に祭り上げられているのだから、たまったものではない。


さて、確かに歯科医には変人が多い、と思う。しかし、これは歯科医の業種的特徴ではなく、経営者という職務からくる歪みだと思う。「いい人では経営者は務まらない」と言われるが、歯科医以上に小規模零細の経営者は、相当な変人で、その上に悪相が加わっている人さえ少なくない。経営誌に登場しているイケメンIT系若社長やダンディーな中高年経営者など、例外的事例である。多くは、その職務の歪みから言動は変人と化し、時に外見には悪相が吹き出ている。

 
歯科医院の立ち上げから歯科医に付き合っていると、歯科医の変わっていく様をまざまざと見ることになる。資金調達の段階では、歯科医は「先生」からいきなり「債務者」へ格下げされ、世間の厳しさを慇懃無礼にも突きつけられ、胃がキリリッと痛む。どうにかこうにか開業までこぎつけると、医療機材の受注を目指して足繁く通ってきた業者は、納品と同時にフェードアウト、歯科医の周りから相談相手がどんどん消えていき、人間不信になる。開業して1年余りは、アレが足りないコレがない状態で医院経営を強いられ、綱渡りのような毎日だ。そうこうしていると資金繰りの苦しさを知らないスタッフからは、「忙しいのに待遇が悪い」などという囁きが耳に入ってきて、こめかみの当たりでプッチと切れる音が聞こえてくる。これでは、変人にならない訳がない。歯科医は端から変人だった訳ではなく、経営者になる過程で変人になっていくのだ。

 
気にすることはない。給料をもらって働いているスタッフ、借金を返済してもらって利ざやを稼ぐ金融機関、材料や技工を商いとしている業者と、患者を集めて金を稼がなくてはどうにもならない歯科医とは、仕事に対するマインドが根本的に違うのだから。絶え間なく続く悩みと苦しみの結果が「変人」でもいいではないか、「経営者は変人で、孤独だ」と、誰もいない診療室で叫んでやろう。

 
こんな歯科医が本質的に抱える恐怖心を緩和してくれるのが、歯科医院に多い同族経営である。しかし、同族経営は恐怖心を緩和してくれるが、変人扱いからの脱出は望めない。歯科医院経営とは、歯科医とスタッフ、出入り業者、金融機関との間にある大いなる隔たりを乗り越えなければ、売上も利益も出ない仕組みになっている。
歯科医院経営は変人扱い、同族経営を過ぎたのちに永続的に繁栄が待っている。

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